モンゴル国内で出版された本。多くが、中身はロシア語の文字と同じキリル文字、表紙と背表紙のタイトルは伝統のモンゴル文字になっている
後ろ盾になれない後ろ盾
モンゴル文字についてブレンサイン氏は珍しい特徴があると話す。日本語の仮名と同じく1つの音節を1文字で表わす音節文字だが、縦に文字を組み合わせるところだ。モンゴル文字は、モンゴル政府がチンギス・ハーンとともに国民に掲げるナショナリズムの要素だ。
そんなモンゴルがいま抱える大きな課題が、モンゴル文字を教える人材の確保。ブレンサイン氏によると、モンゴル文字を知る世代の多くはもう生きていない。文字を教える講師の一部は、おそらく中国政府が支配下に置く内モンゴルから呼ぶことになるという。
これについてブレンサイン氏はモンゴル政府の立場を懸念する。経済や貿易で中国に頼るモンゴルがうかがうのは当然、中国政府の顔色。ブレンサイン氏は「(中国政府を気にする)モンゴル政府は、内モンゴルの問題を見て見ぬふりをする」と指摘する。
実際にモンゴル政府は、中国政府の思惑どおりに動く。象徴的なのが、内モンゴルでモンゴル語による教育が禁止されて2週間後、中国の王毅(ワンイー)外相が招待を受けてモンゴルを訪れたこと。その際にモンゴル政府に対し、無償資金協力として7億元(約118億円)を渡したという。ブレンサイン氏によれば、モンゴル政府が今後、内モンゴルの問題に口出しできないようにしたわけだ。
これらも含めてブレンサイン氏は「内モンゴルにとって、モンゴルは『後ろ盾になれない後ろ盾』。それでも同じ民族としては大切で心強い存在」と語る。
日常生活でモンゴル文字を使う内モンゴルでは、知識人たちが開発した縦書き対応のソフト(本や新聞などに使う)が定着。インターネットやSNS向けに、縦書きを横書きに変換するソフトも現れているという。
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