2万7500人の若者が治安部隊に参加
「アディスアベバは不穏な雰囲気になっている」
こう話すのは国際NGOアドラ・ジャパンの職員として、11月6日までアディスアベバに駐在していた辻本峻平さんだ。緊急事態宣言が発令された後、市内で警察を見かける機会が増えたという。同僚からも、水や非常食を蓄えておくようすすめられた。
「政府の呼びかけにより、すでに2万3000個の武器が登録されたと聞く。人々の生活は大きく変わっていないが、街全体が(反政府軍の進行に対して)準備を進めているように感じる」(辻本さん)
実際、アディスアベバでは緊張が高まっている。11月7日にはアビィ首相を支持し、TPLFに対抗しようという市民の集会が市内で行われた。アルジャジーラの記事によると、2万7500人の若者が治安部隊としてリクルートされ、アディスアベバに住むティグライ人の逮捕も相次いでいるという。
250万人が家を追われる
緊張が高まる中、国際社会はエチオピア政府とTPLFに対して停戦を呼び掛ける。国連の安全保障理事会は11月4日、両陣営に対して紛争を今すぐ停止するようとの声明を発表した。11月初旬には、国連、アフリカ連合、米国の特別大使が相次いでエチオピアを訪問し、政府とTPLFの双方と話し合った。
だが停戦の糸口はつかめていない。エチオピア外務省のディナ・ムフティスポークスマンは11月11日、「TPLFとの交渉に入る決断にはまだ至っていない」と断言した。
1年に及ぶ紛争は甚大な人道被害をもたらしている。国連の報告によると、紛争で何千人もの死者が出ており、避難民は250万人にのぼるという。国連人権高等弁務官などで構成される合同人権調査団は、紛争に関するすべての部隊が拷問や殺人、レイプといった戦争犯罪を犯していると非難した。
エチオピア政府はティグライ州への緊急物資や医薬品を止めている。これにより40万以上のティグライ人が栄養不足に陥っているといわれ、80%の必須医療品が足りていないと国連は報告する。
国際NGO「国際危機グループ(ICG)」のウィリアム・デイビソン上級アナリストはBBCの取材に対して、政府が譲歩してティグライ州に支援や医療サービスを提供できるかどうかが鍵になると話す。反対に反政府軍がアディスアベバに進行すれば、暴力と不安定が増すだろうと危惧する。
隣国エリトリアとの和平を実現し、2019年にノーベル平和賞を受賞したアビィ首相。今後の対応が注目される。