反軍政デモに参加して捕まった市民は1700人以上、「タイ政府は市民の口をふさぐ」と人権派弁護士

最初の出廷で言論弾圧に抗議するラティさん(右)と友人。潔白を表す白いドレスに「容疑者」と書かれたタスキ。指に黒いインクを塗り、「指紋を取り消せ」と訴える

飲み会はいいけど集会はダメ

人権のためのタイ弁護士団によると、2020年7月にバンコクで起きた大規模デモ以来、検察は約1000件、1700人以上の市民を起訴した。2021年11月には起訴された人が67人にのぼるなど、その数は急増している。

「警察は悪法を乱用して、デモ参加者を拘束したり、出所命令を出す」

ワナパットさんがこう話すように、タイ当局は法律を盾にデモの参加者や関係者を拘束、起訴する。最も多く利用されているのが、新型コロナの蔓延により2020年3月に発令された「非常事態令」だ。

2年近くも続く非常事態令は、5人以上参加する集会を禁止する。この法律の悪用で、デモに参加した1400人以上の一般市民が起訴されてきた。

問題なのは、タイ政府は旅行者の受け入れを増やしたり、酒類の提供を再開するなどコロナ対応を緩める一方で、5人以上の集会の禁止はいまだに取り下げていないことだ。

「(飲み会やイベントなど)別の集まりには非常事態令はスルーなのに、政治的なデモにだけ適用される。タイ政府が言論を封鎖するために非常事態令を使っているのは明らかだ」(ワナパットさん)

不敬罪も乱用される。不敬罪とは、国王をはじめとする皇室関係者に対する批判的な言動を罰する法律。刑期が3~15年と重い半面、適用される基準が不明確だ。アムネスティ・インターナショナルなどの国際人権団体は、言論弾圧に利用されるとたびたび批判する。

デモ隊は議会の解散や憲法改正と並んで、王室改革も主張する。タイの国土を国王の私有地にするなど、王室の権限が強すぎるためだ。だが王室改革を訴えることが不敬罪の対象とされる。

タイ政府は2020年の10月以降、それまで使用を控えていた不敬罪を再び適用し始めた。2021年末までに166人が不敬罪で起訴されている。

「憲法改正を訴えてデモをしたら非常事態令で捕まる。(王室改革の一部である)不敬罪の廃止を主張したら不敬罪で捕まる。言いたいことが言えないタイは、本当の意味で民主国家ではない」(ワナパットさん)

デモは歩道で実施され、交通規制は一切なかった。にもかかわらず、検察は、「公共の場所による集会法」違反だけでなく、交通法の違反でもラティさんを起訴した

デモは歩道で実施され、交通規制は一切なかった。にもかかわらず、検察は、「公共の場所による集会法」違反だけでなく、交通法の違反でもラティさんを起訴した

ラティさんの裁判の担当弁護士であり、「人権のためのタイ弁護士団」所属のワナパット・ジェンロムジットさん。「悪法で裁かれた判決に誰も納得しない。司法の信頼すら揺らいでいる」と危機感を募らせる

ラティさんの裁判の担当弁護士であり、「人権のためのタイ弁護士団」所属のワナパット・ジェンロムジットさん。「悪法で裁かれた判決に誰も納得しない。司法の信頼すら揺らいでいる」と危機感を募らせる

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