最低限の読解力がある生徒は8%
中村さんが「読書の演習科目」に着目した理由は、カンボジア人の読解力の低さだ。経済協力開発機構(OECD)が15歳の生徒を対象に実施する国際学力調査(PISA。カンボジアはOECD未加盟国が対象の「PISA for Development =PISA-D」に参加)の2018年のデータによると、最低限の読解力「レベル2(記事や統計表を読んで重要な情報を発見できる)」に達した生徒はたった8%だった。
ちなみにカンボジアと同じくPISA-Dで読解力レベル2以下の生徒が70~95%を占める国は上から、グアテマラ、ホンジュラス(ともに中米)、セネガル、ザンビア(ともにアフリカ)。カンボジアを下回るザンビアだと、レベル2に達した生徒の割合は5%だ。
カンボジア人の読解力が低い理由のひとつとされるのが、1970年代後半に起きたポル・ポト政権による大虐殺だ。主なターゲットとなったのは教師を含む知識人たち。1975年当時の人口の4分の1が犠牲になったといわれる。
大虐殺の後も1991年まで内戦が続いた。その結果、教育は崩壊。中村さんによると、小学校教師が不足していた1994年に教師になったのは、わずか4~8年の学校教育(小4~中2のレベル)と4~5カ月の研修を受けただけの人材だった。
負の歴史から中村さんは自身の活動への思いをこう明かす。
「自分が死ぬまでに、教員養成大学の教官や学生の読解力・理解力が目に見えて上がるという成果は見られないかもしれない。長期的な取り組みだ。でもこれはカンボジアの教育の土台になる」
中村さんの次なる目標は、カンボジア全土にある22の教員養成校(2年制)にこの取り組みを水平展開すること。加えて教員養成大学には「読書部」を立ち上げ、「読書の演習科目」を終えた1年生が2年生以降、「読書の演習科目」のファシリテーターになったり、さまざまな読書法をもとにチームで本を読んだりする場をつくりたいという。