在日ブラジル人の子どもを日本社会は見放している? 滋賀のブラジル人学校「サンタナ学園」が抱える苦悩

滋賀県愛知郡愛荘町にあるブラジル人学校「サンタナ学園」。3つの校舎はプレハブやコンテナづくりだ。2017年にはサンタナ学園を支える(学校運営はしない)NPO法人コレジオ・サンタナが発足。日本人やブラジル人、韓国人など現時点で40~50人のサポーターがいる

日本人にもブラジル人にもなれない

サンタナ学園の意義について中田校長は「日本で暮らすブラジル人の子どもに必要なのは、同世代の子どもと一緒に遊んで学ぶための居場所。自分がいなくなったあとも存続させたい」と訴える。

「子どもは学校がないと、家で1日中ゲームをしたり、テレビやユーチューブを見たりして過ごしてしまう。頭にも身体にも悪く、何より引きこもりになる」(中田校長)

在日ブラジル人の子どもについて、柳田さんはある問題を指摘する。日本語だけでなく、ポルトガル語さえも年齢相応のレベルで使えない「ダブルリミテッド」だ。

ダブルリミテッドは、ブラジル人が日本人と同じ学校に通う中で生まれがちだ。柳田さんはこう説明する。

「日本の学校では、ポルトガル語を学ぶ機会をつくったり、ブラジル人学校を紹介したりすることはできない。ブラジル人以外にも外国人の子どもがいるため、教師不足のなか個別対応も難しい」

続けて柳田さんは「とくに問題行動を起こさないおとなしい子は面倒をみてもらいにくい。ポルトガル語も日本語も不十分なので、教科の内容は理解できない。気づけばいつも、教室の片隅にいる感じ」と語る。

サンタナ学園にもこれまで、日本の小学校でダブルリミテッドに陥った子ども2人が同学園の中学に転校してきた。そのうちの1人について柳田さんは「はじめは自分の殻にこもっていたが、数カ月後には自分から『おはよう』と挨拶してくれた。最近は思春期なのか自己表現が上手くできず、また殻にこもりがち」と話す。もう1人は途中で退学したため、その後は不明だという。

柳田さんによると、ポルトガル語で「聞く・話す」はできても、「読む・書く」ができない在日ブラジル人の子どもは少なくない。受け皿のひとつであるサンタナ学園もポルトガル語で書かれた教科書を使うため、授業について行けないケースが生まれる。先のダブルリミテッドの子どもだと、転入時は中学1年生だったが、まず小学校高学年のクラス(3~5年生)で数カ月勉強して中学校クラスに上がったという。

子どもたちをサンタナ学園や各家庭に送迎するときに使うマイクロバス。一番遠い子どもは片道2時間かかるため、運転も大変だ

子どもたちをサンタナ学園や各家庭に送迎するときに使うマイクロバス。一番遠い子どもは片道2時間かかるため、運転も大変だ

サンタナ学園がある住宅街の路上に子どもが描いたブラジルの絵。他には、休み時間に外で遊ぶための数字盤も描かれている

サンタナ学園がある住宅街の路上に子どもが描いたブラジルの絵。他には、休み時間に外で遊ぶための数字盤も描かれている

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