軍人の親父は胸くそわるい
トラックはメーソットの町中を抜け、国道に入った。騒々しい中心部とは打って変わって、山と畑が広がる田園風景。今度こそ間違いなくメーコーケンに向かっている。
私はその途中、ジェームスに尋ねた。
「クーデターを起こした国軍をどう思うか」
ジェームスはハンドルを握って前を向いたままこう言い切った。
「大っ嫌いだ。奴らは人間じゃない。哀れみもくそもあったもんじゃない」
ミャンマー人の国軍嫌いは今ピークに達しているので、この反応はある程度予想できた。だがジェームスの場合、一般のミャンマー人とは少し状況が違った。ジェームスの父親は軍人だったのだ。
「俺の親父は昔、軍で会計の仕事をしていた。チン族だから上級のポジションには就けなかったけどね。だから軍がどれだけ腐っているかを、これまで嫌というほどこの目で見てきたよ」
ジェームスは幼いころ、軍人が住む集合住宅に住んでいた。ある日、上官がジェームスの家にやってきて父親に罵声を浴びせかけた。仕事でミスをしたと因縁をつけてきたのだ。だがジェームスの父親は上官に一切言い返さなかったという。
威張り散らす上官、下を向く父。ジェームスはその光景を見て、子どもながらに怒りを覚えたという。
「軍人は力があれば何でもコントロールできると思っている。えらくなればなるほど威張り散らす。だから俺は政府や軍といった権力を持っている奴が大嫌いなんだ」
興奮したジェームスは続けた。
「上官の命令にただ従っている奴らも、胸くそわるい。この時の親父には心底失望したよ」
国軍のこのトップダウン体制に嫌悪感をもっていたジェームスは20歳で大学を卒業すると、すぐに家を離れ、タイへ出稼ぎに出た。仕事を転々とした後、2012年に現在所属するNGOプレイオンサイドの職を得たのだ。ジェームスはこのNGOでサッカーのコーチをしながら、会計などの事務もこなしている。
プレイオンサイドは子どもたちにサッカーを教えながら、いろんな民族の子どもが交流する場を作り、民族融和を目指すNGO。私は2019年にプレイオンサイドの取材をした。サッカーをする子どもたちの生き生きとした姿が今も目に焼き付いている。
ジェームスはその時の子どもたちと同じように目を輝かせながらこう話してくれた。
「TK、スポーツはいいぞ。子どもたちが自分を自由に表現できる。アートもそうだ。俺はミャンマーに帰ったら、子どもたちがスポーツやアートを心いくまでできる場を作りたい。そしたら国軍みたいに威張っている奴には絶対ならないからね。ハハハ」
いつもふざけているジェームスだったが、この時ばかりは少し熱くなっていた。