2月24日にロシアが隣国ウクライナに侵攻してから間もなく2カ月。日々報道されるこの紛争の裏で、「世界が注目しない危機」がいくつもある。そこで今回は、イエメンの飢餓やベネズエラの経済破綻、ハイチ大地震など、心にとめておきたい10の危機を紹介する。
イエメン内戦、飢餓が深刻化
1つめは、中東イエメンで2015年から7年にわたって続く内戦だ。首都サヌアがある北部はイランが後ろ盾の反政府武装勢力フーシが、第2の都市アデンがある南部は暫定政権を支援するサウジアラビア主導の有志連合軍(IRG)がそれぞれ支配する。両者は4月2日からの2カ月間、イスラム教のラマダン(断食月)にあわせて国連の仲介のもと停戦に入った。
停戦前の数カ月は内戦がとくに激化していた。2月には港湾都市ホデイダにあるインターネット通信施設をIRGが空爆。ほぼイエメン全土でネットへのアクセスが遮断された。3月末にはサヌアにある非武装地域でも空爆があったという。
国連児童基金(UNICEF)イエメン事務所の職員は「ロシアがウクライナを侵攻する前から、イエメンでは飢餓がずっと続く。2021年11月からは石油タンカーが紅海から入ってこなくなったため、町中のガソリンスタンドで車が大行列。(内戦も激化して)市民の不満は爆発寸前だったと思う」と語る。
イエメンの飢餓についてUNICEFは「破滅的なレベルの飢餓(総合的食料安全保障レベル分類で最高のフェーズ5)」に陥る人が2022年後半までに16万1000人と現在(3万1000人)の5倍に増えると予測。「史上最悪の飢餓」になる可能性があるとしている。
イエメンの飢餓を加速させる最大の要因が、ウクライナ侵攻を受け、ロシアとウクライナの小麦の輸入が世界中で止まったことだ。世界の輸出量に対するシェアはそれぞれ16%、10%に上るからその影響は計り知れない。
イエメンの主食は、小麦から作った「ホブス」と呼ばれる薄いパンだ。国際NGOオックスファムによると、イエメンは、小麦の輸入量の約50%をロシア、ウクライナ両国に頼っている。ちなみに両国からの小麦輸入が自国の輸入量の50%以上を占める低・中所得国はイエメンを含め14カ国ある。とりわけ依存度が高いのはエリトリアで100%。ソマリアも90%以上だ。この比率が30%以上の国・地域は世界におよそ50カ国にのぼるという。
クーデター続きのマリ、制裁で経済悪化
2つめは、9カ月間で2回(2020年8月と2021年5月)のクーデターが起きた西アフリカのマリだ。国軍は1回目のクーデターでイブラヒム・ケイタ前大統領を、2回目でバ・ヌダウ暫定大統領とモクター・ウアンヌ暫定首相を拘束した。軍事政権になって11カ月が経つ。
マリ駐在の経験をもつ前述のUNICEF職員は「マリ市民にとって不満になっているのは、クーデターそのものよりも西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)がマリに科した『国境封鎖や物資を送らないなどの制裁』。セネガルやコートジボワールなどが加盟するECOWASを裏で牛耳る旧宗主国フランスの圧力がきつい。経済も悪化したのではないか」と話す。
中央アフリカ共和国、9年続く抗争
3つめは、「世界最貧国」とかねてからいわれてきた中央アフリカ共和国。同国では、イスラム教徒を中心とする反政府勢力「セレカ」(後ろ盾はチャド)が首都バンギを2013年に奪って以来、キリスト教系の武装組織「アンチバラカ」との抗争が続く。
中央アフリカ共和国で仕事をしてきた国連職員のひとりは「今は、セレカが分派してさまざまな武装組織が生まれている。遊牧民も抗争に巻き込まれて2013年頃から移動生活ができなくなった半面、家畜用のエサを求めてチャド経由で中央アフリカ共和国に入って村を攻撃。東南部にはまた、ウガンダから派生した反政府武装勢力『神の抵抗軍(LRA)』もいるため、ずっと不安定なまま」と明かす。