2度の大地震に見舞われたハイチ
7つめは、カリブ海に浮かぶ国ハイチの南西部で2021年8月14日に発生したマグニチュード7.2の大地震だ。同国の人口(1140万人)の7%に当たる80万人が被災して8カ月が経つ。だがUNICEFによると、最も被害が大きかった南、グランダンス、ニップの3県ではいまも1000校以上の学校が再建できていない。このため推定32万人の子どもが「学習に適さない環境」での勉強を余儀なくされている。
ハイチでは3.11(東日本大震災)の1年前の2010年1月12日にも、首都ポルトープランスの付近を震源とするマグニチュード7.0の大地震が起き、大惨事となった。死者は30万人以上(東日本大震災の死者数は2022年3月9日時点で1万5900人なので、その19倍だ)。被害者は人口の約3分の1にあたる300万人以上といわれる。今回の大地震は、復興の途上にある12年前の大地震の被害に追い打ちをかけた格好だ。
カリブプレートと北米プレートの境界あたりに位置するハイチは、地震が発生しやすい地形だという。ただ、同じイスパニョーラ島にあるドミニカ共和国はハイチのような深刻な被害を受けていない。
砲撃続くシリア、1330万人が家を追われる
8つめは、「21紀最大の人道危機」といわれる紛争が2011年に始まったシリアだ。
紛争の発端は、ロシアとイランから支援を受けるアサド政権が、民主化を求める反政府デモを武力弾圧したこと。アサド政権のほか、北西部イドリブ県に拠点をおく反体制派、イスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国(IS)」、米軍が支援するクルド人主体の部隊「シリア民主軍」が入り交じり、対立してきた。
国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、シリア北西部で人道援助が必要な人の数は、2021年の340万人から2022年2月時点では410万人(同地域の人口は440万人)へといまも増えている。空爆は減ったものの、いまなお砲撃はほとんど毎日あるという。
紛争で家を追われたシリア人の数は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば約1330万人。内訳は、海外に逃れた難民660万人、国内で別の場所に逃れた国内避難民(IDP)670万人。難民の多くはトルコやレバノン、ヨルダン、イラク、エジプトなどで暮らす。
シリア紛争の終結に向けて活動する日本のNGOグループ「シリア和平ネットワーク」によると、2011年からの紛争で損失した金額は推定6500億ドル(約82兆6446万円)。これは紛争前(2010年当時)のシリアのGDPの11年分だ。2010年の水準まで経済を回復させるには、GDPが年平均10%成長したとしても23年かかるという。
シリア在住経験をもつ日本人男性のひとりは「首都ダマスカスに住む友人は、物価が10年で10倍以上も上昇したり、停電で毎日1時間しか電気が使えなかったり、冬の寒さが特に厳しかったりと心身ともに疲れ果てた印象。精神的に追い込まれて自殺した人もいると聞いた」とシリアの窮状を代弁する。
アフガニスタン、タリバンが女子の中等教育を停止
9つめは、反政府勢力タリバンが20年ぶりに復権したアフガニスタン。タリバンは、米軍が2021年9月11日までにアフガニスタンから撤退するとの計画を受け、4月下旬から攻撃を開始し、8月15日に首都カブールを制圧した。OCHAによれば、アフガニスタンでは2021年だけで約69万8000人が難民となった。
カブールを制圧して初めて記者会見を開いたタリバンの報道官は、シャリーア(イスラム法)の範囲内で女性が働いたり学校に通ったりする権利の尊重を明言していた。だがBBCによると、教育省は3月24日に「すべての女子校と、第6学年以上(日本の中学校・高等学校)の女子生徒については、次の命令まで休校扱いとする」と発表したという。
軍政となったミャンマー、1600人以上を殺害
最後は、クーデターを起こした国軍が国家権力を掌握して1年2カ月が経ったミャンマー。2015年の民主的な選挙を受けて2016年から5年間政権を握った国民民主連盟(NLD)のアウンサンスーチー党首(ミャンマー国家顧問)や複数の政治家は拘束されたままだ。
ミャンマーでは1962年の軍事クーデターから軍政が続いていたが、およそ半世紀経った2011年に民政移管。民主化にわいた期間はわずか10年だった。ただ再び軍政となったいまもミャンマー市民は民主主義を取り戻すことを諦めていない。公務員が職務をボイコットする「市民不服従運動(CDM)」に参加したり、民主派で構成する国民防衛軍(PDF)を立ち上げて戦ったりするなどして軍政に抵抗している。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、軍事クーデター以来、軍政下の治安部隊は1600人以上を殺害、1万2000人以上を拘禁したという。
ミャンマーの最大都市ヤンゴンに住む女性は「自分の命や家庭、食料、人権を失うことが脅威。電気も十分に来ないなかリモートで働くことさえ厳しいため、職や収入も減っている。大半の学校は休校中で、子どもはまともな教育を受けられていない」と不安を口にする。