ナチスと憲兵隊
展示室の奥にはおぞましい拷問の写真があった。腕を縛られ、目隠しされたまま、スクワットのような姿勢で座らされる。そこから何時間にもわたり暴行を受けるのだという。拷問により顔が腫れ上がった女性の写真が痛々しい。
コンゲは展示された写真を指差し、こう言った。
「ミャンマー国軍はナチスやキンピータイのやり方を真似ている」
「キンピータイ? それは何?」。私はコンゲに聞き返した。コンゲは驚いたようにこう私に尋ね返した。
「キンピータイを知らないのか。第二次世界大戦の時の日本軍の諜報部隊だ」
キンピータイ。それは憲兵隊のことだった。憲兵隊とは第二次世界大戦のさなかに、当時の日本の植民地で活動する反日組織を取り締まった部隊だ。疑わしいものは拘束して拷問をする。時には殺した。ミャンマーを含め東南アジアではその蛮行が広く言い伝えられている。
拘束、拷問、殺害。まさに、今のミャンマー国軍と同じ。憲兵隊の拷問が時代を超えて今、ミャンマーの市民を苦しめているのだ。
日本とミャンマー国軍の関係はそれだけではない。ミャンマー国軍の起源は、戦時中に日本軍が軍事訓練を施したビルマ独立義勇軍が始まりだといわれている。最初に訓練を積んだ30人の中には、アウンサンスーチーの父であるアウンサン将軍もいたことは有名な話。日本がミャンマー国軍の生みの親ともいえるのだ。
そんなミャンマー国軍が今、憲兵隊の手法を真似て、罪もないミャンマー人に拷問をしている。日本人として私はその事実にどう向き合うべきなのか、と考え込んだ。
AAPPは、国軍が主導する国家行政評議会(SAC)ではなく、民主派勢力が作った国民統一政府(NUG)を「正式な政府」として承認するよう日本政府に求めている。
国軍は「2020年の議会選挙で不正があった(だから軍系の政党が敗北した)」と主張するが、クーデターに対してここまで多くの市民が反抗している事実を顧みれば、民意がどちらにあるのかは明らか。日本政府には今すぐにでもNUGを認め、国軍に利するような経済活動をストップしてほしい。それこそミャンマー国軍を生み出した日本にできる数少ない責任の取り方なのではないだろうか、と私は思った。(続く)