許可されても操業再開しない?
操業再開のチャンスは、ホワイトリストに入っていない企業にもある。登記がある地区政府に企業が自ら申請して、許可を得る仕組みだ。江蘇省の蘇州工業園区にある大手電子部品メーカーの場合、4月23日に再開を申請したのち、25日に審査を通過して許可された。翌26日の夜10時ごろ、再開する工場に、これまでの従業員260人の15%にあたる40人を入れたという。
ただアンケートによると、上海では操業再開を希望する企業が決して多い訳ではない。封鎖操業の実施状況についての回答は「(操業再開を)許可されても実施しない」が製造業で36%、非製造業で43%を占めるほどだ。
そもそも再開未申請の企業は、上海の製造業の63%、非製造業の62%にのぼる。再開の条件は、登記がある地区政府が定めた手引きに従うこと。守れない場合はすぐに操業停止になる。伊奈氏は「責任の所在がすべて企業側にあるため、再開に踏み出すのに躊躇してしまう」と指摘する。
封鎖操業の実態を、先の大手電子部品メーカーの担当者はこう明かす。
「(工場がある)園区は、1人あたり40元(約770円)かかるPCR検査を企業が負担して従業員に実施するよう要請するが、検査コストを考えると難しい。そのため、複数の企業を回るPCR検査用バスを用意して、検査希望者をひとまとめにする仕組みを園区に提案している」
操業停止でも100%の賃金を払う
伊奈氏は、工場が操業停止する時の従業員の賃金にも注目する。アンケートによると、操業停止する44社の48%が減額せずに正常(100%)に賃金を支給すると回答。伊奈氏は「コロナ禍のなかでも、日系企業が非常に健全な経営をしている証拠」と説明する。
だがその理由について、日系の精密機器メーカーの担当者は「もし操業停止の際に正常な賃金を支払わなければ、従業員が働いてくれなくなるという大きな不安が日系企業にあるためではないか」と話す。
中国政府の方針では、操業停止した企業は、初めの1カ月は正常な賃金、2カ月目からはその8割の金額を従業員に支払う。従業員への通知は必要だが同意は要らないという。
伊奈氏は「従業員への同意が不要とはいえ、早い内に操業停止の申請に踏み切れないケースが少なくない」と語る。アンケートによると、3~5月に操業停止すると答えた44社の57%の停止時期は5月からだ。