【ルポ・ミャンマーからの逃亡者を追う⑤】カレン族とビルマ族は共闘できるのか、KNUの“外相”に接触

カレン民族同盟(KNU)の創始者サウバウジが映るカレンダーの前に立つ、KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニ。見た目は穏やかだが、とてつもない意思の強さを感じた

2021年2月に軍事クーデターが起きて以来、軍政が続くミャンマー。国軍に対抗しようと、多数派のビルマ族とさまざま少数民族が結集し始めました。第5回(最終回)は笹田健史記者が少数民族のひとつであるカレン族の武装組織「カレン民族同盟(KNU)」の“外相”とカレン族の青年を取材。彼らの胸の内に迫ります。これまでのストーリーはこちら(第1回第2回第3回第4回)。

反政府武装組織に潜入

ミャンマーと国境を接するタイ側の町メーソット。この中心部から数キロメートル離れた閑静な住宅街に私は来ていた。KNUの外相兼スポークスマンを務めるサウタウニーという人物に会うためだ。

KNUをなぜ取材しようと思ったのか。それはKNUが現在、反国軍の急先鋒となっているからだ。軍事クーデターを真っ先に非難し、ミャンマー東部のカレン州で国軍との戦いを続けている。KNUの今後の行動が、春の革命(2021年のクーデターを機に発展した今回の民主化運動)の命運を握るといっても過言ではない。

KNUの取材はかねてからの願望だった。だがKNUが指定する家の前に着いたところで、私は二の足を踏んでいた。

KNUは筋金入りの反政府武装組織だ。日本の公安調査庁も「注目される国際テロ組織、世界のテロ・ゲリラ組織」に指定している。大丈夫なのか。期待と不安が交錯する中、私はその家のドアをノックした。

中から現れたのは、白いシャツにメガネをかけた男性。見るからに“普通のおじさん”だ。彼がKNUの外相兼スポークスマンのサウタウニーだった。屈強な男が出てくるのではないかとドキドキしていた私は、一気に緊張が解けた。

そもそもKNUはただの反政府武装組織ではない。ミャンマーが1948年に英国から独立する前からカレン州の一部を実質統治してきた小さな政府のようなもの。行政機関もしっかりあり、サウタウニーは、外務省に当たる外務局のトップを務める。メディア対応は彼がすべてしているそうだ。

「遠いところまではるばるよく来てくれた」

サウタウニーは落ち着いた口調で私を中に迎え入れてくれた。

家の中は生活感がなく殺風景。必要最低限のものしか置かれていない。会議室のようだ。サウタウニーは壁に掛けられたテレビを指差し、「最近の会議は全部オンラインだよ」と笑いながらいすに座った。

民族連邦制という悲願

私はまず、KNUの今後の方針について尋ねた。

「KNUは軍事クーデターの後、いち早く国軍を非難し、民主派を支援してきた。今後は国軍とどう対峙していくのか」

するとサウタウニーは食い気味に話し始めた。

「民主派の活動家や国民民主連盟(NLD。アウンサンスーチーが率いる政党)の政治家、それぞれの少数民族の代表などを包括する国家統一協議評議会(NUCC)という議会のような組織ができた。今後はNUCCを中心に、みんなで協力して国軍を打倒する」

サウタウニーはNUCCの始動に大きな期待を寄せているようだった。それもそのはず。NUCCは、KNUの悲願である民族連邦制の実現につながるからだ。

民族連邦制とは、カレン族を含む少数民族に各州の自治を認める制度。だが民族連邦制は、2011年まで続いた軍事政権でも、またその後のNLD政権でも議題にすら上がらなかった。

それが2021年の軍事クーデターを機に状況が大きく変わった。国軍の本性を知ったビルマ族が、カレン族を頼るようになったのだ。KNUは公式には認めていないが、多くの民主活動家やNLDの政治家をかくまっているという。こういった背景から、民族の枠を超えたNUCCの創設につながったのだ。

「我々(反国軍勢力)は今年中(2022年)に国軍を打倒し、NUCCを基本とする民主政権を立ち上げる」

サウタウニーはこう意気込む。

KNUの旗。今回の取材のフィクサー、ブワイの家の壁に飾られていたもの。ブワイはカレン族だ

KNUの旗。今回の取材のフィクサー、ブワイの家の壁に飾られていたもの。ブワイはカレン族だ

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