世界の5人に1人が感染する「顧みられない熱帯病」、実は日本でも278人がかかっている!?

ケニア北東部のガリッサにあるソマリ人の村で、地元のNGOが村人にワクチンを接種しているところ。手前の女性は看護師(増田氏撮影)

「コロナの時代に顧みられない熱帯病を顧みる」と題する公開シンポジウム(主催:日本アフリカ学会)が5月22日、長崎大学で開かれた。冒頭あいさつに立った松田素二会長は「世界17億人が患う熱帯病は、実は日本にも毎年入ってきている。新型コロナで感染症が身近になった今こそ、アフリカの熱帯医学研究にも注目してほしい」と訴えた。

世界で年間1900万人かかる

顧みられない熱帯病(NTDs)とは、病気の認知度を上げることを目的に世界保健機関(WHO)が2012年に、「制圧しなければならない熱帯病」と制定したもの。デング熱や狂犬病、ハンセン病をはじめとする20の病気を指す。

ただNTDsのなかには日本ではあまり知られていない病気もある。ブルーリ潰瘍やリーシュマニア症、シャーガス病、マンソン住血吸虫症、アフリカトリパノソーマ症(通称:アフリカ睡眠病)などだ。そのひとつのアフリカ睡眠病は、昏睡状態に突如陥り、そのまま死亡することもある熱帯病。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカにある36カ国で確認されている。ペンタミジンやニフルチモックスなどの投薬で治療が可能だ。

WHOの報告によると、NTDsを患う人はあわせて毎年1900万人。この1%弱に当たる約20万人が死亡する。感染経路がわからないといった不明な点も多く、治療は困難。医療費は高額だ。また、NTDsの感染者に対する差別が横行する現状もある。

コロナに比べ関心は低い

長崎大学で寄生虫を専門とする森保妙子助教によると、病気が社会から注目されるためには6つの条件があるという。

最初の条件は「感染者数」「感染場所」「誰が患っているか」の3つだ。感染者の数が少なく、流行がへき地や限定的な場所であれば、人々の関心は低くなる。また、医療もビジネスであるため、高額な治療費を払える有名人や富裕層が感染すれば、治療法の研究も進む。

次の条件は「人間ひとりから感染する人数」「感染経路」「症状の度合い」の3つだ。

森保氏は「NTDsに対する関心は、6つの条件のどれかが原因で低くなる。その結果、研究・治療は後回しになる。新型コロナ感染症と比べて、NTDsへの注目度は非常に低いのではないか」と熱帯病研究の進展が遅いことを指摘する。

NTDsとして制定するメリットは、病気の認知度を上げるためだけではない。病気の研究や治療法の開発を効率化することへの期待もある。たとえば感染経路が同じNTDsの場合、ひとつの対策で複数の感染症を予防できるようになる。

ケニア西部にあるビクトリア湖のほとりのビタ村で水揚げされたばかりのナマズ。食べ物や水といった恵みを住民にもたらすビクトリア湖だが、湖の中には住血吸虫がいる(増田氏撮影)

ケニア西部にあるビクトリア湖のほとりのビタ村で水揚げされたばかりのナマズ。食べ物や水といった恵みを住民にもたらすビクトリア湖だが、湖の中には住血吸虫がいる(増田氏撮影)

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