「コロナの時代に顧みられない熱帯病を顧みる」と題する公開シンポジウム(主催:日本アフリカ学会)が5月22日、長崎大学で開かれた。冒頭あいさつに立った松田素二会長は「世界17億人が患う熱帯病は、実は日本にも毎年入ってきている。新型コロナで感染症が身近になった今こそ、アフリカの熱帯医学研究にも注目してほしい」と訴えた。
世界で年間1900万人かかる
顧みられない熱帯病(NTDs)とは、病気の認知度を上げることを目的に世界保健機関(WHO)が2012年に、「制圧しなければならない熱帯病」と制定したもの。デング熱や狂犬病、ハンセン病をはじめとする20の病気を指す。
ただNTDsのなかには日本ではあまり知られていない病気もある。ブルーリ潰瘍やリーシュマニア症、シャーガス病、マンソン住血吸虫症、アフリカトリパノソーマ症(通称:アフリカ睡眠病)などだ。そのひとつのアフリカ睡眠病は、昏睡状態に突如陥り、そのまま死亡することもある熱帯病。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカにある36カ国で確認されている。ペンタミジンやニフルチモックスなどの投薬で治療が可能だ。
WHOの報告によると、NTDsを患う人はあわせて毎年1900万人。この1%弱に当たる約20万人が死亡する。感染経路がわからないといった不明な点も多く、治療は困難。医療費は高額だ。また、NTDsの感染者に対する差別が横行する現状もある。
コロナに比べ関心は低い
長崎大学で寄生虫を専門とする森保妙子助教によると、病気が社会から注目されるためには6つの条件があるという。
最初の条件は「感染者数」「感染場所」「誰が患っているか」の3つだ。感染者の数が少なく、流行がへき地や限定的な場所であれば、人々の関心は低くなる。また、医療もビジネスであるため、高額な治療費を払える有名人や富裕層が感染すれば、治療法の研究も進む。
次の条件は「人間ひとりから感染する人数」「感染経路」「症状の度合い」の3つだ。
森保氏は「NTDsに対する関心は、6つの条件のどれかが原因で低くなる。その結果、研究・治療は後回しになる。新型コロナ感染症と比べて、NTDsへの注目度は非常に低いのではないか」と熱帯病研究の進展が遅いことを指摘する。
NTDsとして制定するメリットは、病気の認知度を上げるためだけではない。病気の研究や治療法の開発を効率化することへの期待もある。たとえば感染経路が同じNTDsの場合、ひとつの対策で複数の感染症を予防できるようになる。