スラムの子どもを通学させたインドの教育テック実業家がいた! その数2000人

ジャイプールのスラムに入って住民とコミュニケーションをとる、スマイルフォーオールの創設者ブネシュさん

勉強するためにペンが欲しい

スマイルフォーオールをブネシュさんが作るきっかけとなったのは、あるスラムの子どもたちとの出会いだ。2016年のことだった。

車に乗ったブネシュさんが信号待ちをしていると、3人の子どもがブネシュさんの車の窓をノックした。ほとんどの場合、子どもたちはお金を恵んでほしいと言ってくるのだが、その時は違った。ノートを抱えた子どもたちは「ペンが欲しい」とねだったのだ。

ブネシュさんはすぐさま近くのキオスクに行ってペンを購入。子どもたちに渡した。子どもたちは「これでノートがとれる」と大喜びした。

低所得者層の子どもの教育に興味をもっていたブネシュさんはこの子たちについていき、スラムに住む親と会った。話を聞くと子どもたちは学校に通っていなかった。教育の重要性を親は認めるが、子どもたちを学校に行かせて働き手が足らなくなることを嫌がっていたという。

子どもたちが少しでも学べるように、とブネシュさんは仕事が終わった夕方、毎日その家を訪問して勉強を教えた。親は当初、なぜ毎日教えに来るのかと不思議がっていた。だがブネシュさんの情熱に少しずつ感化され、最終的に子どもたちを学校に行かせるようになったという。

ブネシュさんはその後もスラムの子どもたちに勉強を教え続けた。そのうわさを聞きつけた近所の親たちが「うちの子どもにも教えてほしい」とブネシュさんに依頼するようになった。子どもの数は3人から40人へ。放課後の家庭教師はいつしか放課後の授業へと変わっていった。

ブネシュさんは当時お金がなかったが、他の子どもたちも私立の学校に入れることにした。15万ルピー(約26万円)をローンで借り、学費を肩代わりした。だがそれでも子どもたちは次から次へとやってくる。

「放課後の授業だけでは不十分。かといってすべての子どもの学費を個人でまかなうのは限界がある」。こう感じたブネシュさんは2019年、スマイルフォーオールを立ち上げ、ハッピーサブスクライブを始めた。

今では700人以上(500ルピー以上寄付してくれる人もいる)がハッピーサブスクライバーに登録。2000人を超える子どもを学校に通わせている。最初はブネシュさんが住むジャイプールだけだったが、今では総勢5000人以上のボランティアに支えられ、インド各地のスラムの子どもの学費を払えるまでになった。

ブネシュさんはもともと教育テック界の実業家だ。友人2人と2016年に立ち上げたスタートアップ企業を2018年、インド最大手の教育プラットフォーム企業であるアンアカデミーに売却した。ブネシュさんは現在、アンアカデミーに籍を置きながら、スマイルフォーオールの活動に力を注いでいる。

「子どもが学校で学べば将来、良い仕事に就き、その子だけでなく親やきょうだい、その子どもたちみんながスラムを抜け出せる。教育こそが貧困を減らす最大のツールなんだ。ハッピーサブスクライバーをもっと増やし、2025年までに100万人の子どもを学校に通わせる」

ブネシュさんはこう熱く語る。

スマイルフォーオールがスラムで開く青空教室に参加する子どもたち

スマイルフォーオールがスラムで開く青空教室に参加する子どもたち

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