シリア支援28年の佐藤真紀さん「僕が助けなければ、この小児がん患者は死んでいた」

イブラヒムくん(9歳)一家の写真。急性骨髄白血病をわずらっていた。チームベコが医療費を毎月お送り続けていたが、帰らぬ人に。イブラヒムくんの父は公務員

「もし死にそうな子どもがいたら、たとえそれが一人でも、誰かが助けないといけない」。こう語るのは、20年以上にわたってシリアやイラクのがん患者を支援してきた佐藤真紀さんだ。佐藤さんが代表を務めるシリア支援団体チームベコは2020年から、シリア北部のアレッポに住む小児がん患者のサラーハ・アハマッドくんに医療費として毎月5万円を送り続ける。

経済制裁で交通費5倍

サラーハくんは、多発性骨髄腫を患う10歳の男の子。骨が折れやすいためコルセットを着けて生活する。「少し前まで鼻血がたくさん出て大変だったようだ。でもつい最近、元気に家でご飯を食べている写真を送ってくれた」(佐藤さん)

月々送る5万円の用途の大半を占めるのは、家から病院までの交通費だ。サラーハくんは母親と一緒に週に1度、タクシーで片道4時間半をかけ、首都ダマスカスのがん専門の国立病院に通う。アレッポにあったがん専門の病院が武装勢力に破壊されたからだ。1往復のタクシー代は30万シリアポンド(約1万6100円)にのぼる。

交通費は2020年以前と比べておよそ5倍。急騰した原因は、シリアのアサド政権に対する経済制裁だ。米国が2020年に施行したシーザー・シリア市民保護法は、石油・ガス産業も制裁の対象とした。この結果、ガソリンの値段は日本円で1リットルおよそ340円となった。

佐藤さんは「独裁政権を倒すための経済制裁は良いことに思えるかもしれない。でもこんなふうに、社会の底辺にいる人たちをさらに追いつめていることを日本人に知ってほしい」と語る。

交通費とは対照的に、治療はほぼ無料だ。小児がんを支援するシリアのNGO、BASMA協会が薬などを病院に提供するからだ。BASMA協会は、英国出身のアサド大統領夫人が2006年に立ち上げた団体として知られる。

佐藤さんは「ただ経済制裁で大統領夫人も資産を凍結され、薬が輸入できなくなっているようだ。それでもすべてのがん患者が金額の負担なく治療を受けられるように支援を続けてくれている」と話す。

ストーブをのぞき込むサラーハくん。灯油を買うお金がなく、古着などをくべて暖をとる(シリア・アレッポ、2022年1月)

ストーブをのぞき込むサラーハくん。灯油を買うお金がなく、古着などをくべて暖をとる(シリア・アレッポ、2022年1月)

シリア紛争の激戦地のひとつであるアレッポ。サラーハくん一家は、破壊を免れた家をただで借りて住んでいる(2021年8月)

シリア紛争の激戦地のひとつであるアレッポ。サラーハくん一家は、破壊を免れた家をただで借りて住んでいる(2021年8月)

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