1日4リットルの水でも足りない
とはいえ私には、インド人の優しさを感じた思い出がいくつも頭に浮かぶ。
インド人労働者のたまり場にもなっている無料の給水機「ドバイキャン」の前でのこと。ドバイ市内で時々見かけるこの機械は、指をかざすとセンサーが反応して水が出てきて、ペットボトルや水筒に誰でも好きな量だけ冷たい水を入れることができる。猛暑のなか、感動ものだ。
ドバイキャンの前にはたいてい、デリバリーの制服や工事現場の作業着を着たインド人男性が2、3人いてプチ行列ができている。
私が水を入れようと近づくと、「自分は入れる水の量が多いから、先に入れていいよ」と順番を譲ってもらえることが多い。670ミリリットル入る私のプラスチックの水筒とは対照的に、彼らが抱えているのは2リットルのペットボトル2本。
「1日4リットルでも水が足りなくなるのか。それほど過酷な屋外で働いているんだな」と思うと、外を30分歩いただけでドバイの暑さにうだる自分が恥ずかしい。同時に、そんな大変な仕事中なのに私に順番を譲る余裕があるなんて尊敬する。
女性だから先にどうぞ!
順番といえば、バスターミナルでバスに乗ろうとした時のこと。たくさんの人が一気に押し寄せて乗降口がつかえていたが、30代くらいのインド人男性が「女性だから先に乗りなよ」と言って、自分の前を開けて私を入れてくれた。人の波にのまれる時間が少し短くなって助かる。
別の日には、帰宅ラッシュの公共バスの車内でたくさんのインド人男性に挟まれて私が1人で立っていると、50代くらいのインド人男性が「立っていないで座りなよ。こっちこっち」と空いている席を教えてくれた。
「女性+子ども」の専用車両があるメトロ(ドバイ市内を走る都市鉄道)と違って表示は何もないが、公共バスは前方の座席一帯が女性優先らしい。私はこのインド人のおかげで知ることができた。
ドバイにいるインド人男性の多くは空いた席があっても座らず、基本立ちっぱなし。座っていたとしても、女性を見つけたらすぐに立ちあがって「どうぞ」と譲ってくれる。「インド人ってこんなにレディファーストなのか」と驚いた。