軍の子どもでないと医学部に入れない
佐賀さんは現在、看護師として都内の病院で働く。ミャンマー第2の都市マンダレーで生まれ、看護大学を卒業。ヤンゴンの病院で2年半働いたあと、2013年に来日。日本の看護大学で学び直した後、2017年に看護師の国家試験に合格した。
ミャンマーでクーデターが起きたことを知った佐賀さんは6月から、民主化運動への支援を目的に立ち上がった東京・池袋のミャンマー料理店「スプリング・レボリューション・レストラン」で働き始めた。といっても本業のかたわらのボランティアだ。今は店の責任者を務める。このレストランは店のすべての利益を、CDM参加者や国内避難民の食料や日用品を買うための資金としてミャンマーに送金する。
佐賀さんが祖国の民主化を求めるのは「自由に教育も受けられない軍政下では、自分たちの未来がない」との思いがあるからだ。佐賀さんの夢はかつて、医師になることだった。高校の成績はトップクラス。医学部にも十分入れる位置にいたが、希望は叶わなかった。
「大学の学部も、軍関係者の子どもの希望が優先されていた。私が受験した年は優先枠で医学部の定員がほぼ埋まった。私より成績がかなり悪いクラスメートが、軍関係者の息子というだけで医学部に入った」(佐賀さん)
2011年の民政移管を経て、2015年の総選挙でアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が勝利したころから、ミャンマーの人たちは束の間の自由を味わってきた。大学へ進学する際の優先枠はなくなり、インターネットも一気に普及。外国からの投資も伸び、毎年約7%(2011〜2020年度の実質GDP成長率)の安定した経済成長も謳歌した。
「今回のクーデターはそんなミャンマーの自由と発展を台無しにした。軍を倒し、再び自由を取り戻すまで諦めない」(佐賀さん)
市民を殺す軍人を日本で教育するな
佐賀さんは「(ミャンマーの民主派が発足させた国民統一政府の)NUGを認めるよう、日本人も自国の政府に声をあげてほしい」と強く訴える。オンライン政府のNUGを正式に承認する国は現在ない。「在日ミャンマー人が声を出しても、日本の政府は動かない」(佐賀さん)
日本政府は今、防衛大学校などでミャンマー国軍の兵士11人を留学生として受け入れている。佐賀さんは「(2023年度以降は停止するが)ミャンマー市民を殺す国軍兵士の受け入れを直ちにやめるべき」と憤る。
佐賀さんがもうひとつ懸念するのは「日本企業も、ミャンマー軍に間接的に協力している」ことだ。クーデターを受けてミャンマーから引き上げた企業が戻り始めている。「日系企業は税金をミャンマー政府に払う。そのお金で国軍は武器を買い、国民を殺す。日本企業がミャンマーに戻らないよう、日本人は声をあげてほしい」とも訴える。