お腹の状態で精神状態わかる
ワラヨンさんは筆者をベッドの上に寝かせると、神棚のブッダに向かって一礼。いよいよマッサージだ。
ワラヨンさんはまず、タイマッサージで身体全体をほぐしていく。その後、お腹にオイルを塗り、チネイザンを始める。臓器があるところに指を立て、少しずつ深く沈ませていく。そこで10~15秒ほど止める。
この力加減が絶妙だ。腹式呼吸でお腹が上がったり下がったりするなか、お腹に突き刺さった指が「痛い」と「気持ち良い」の間を行ったり来たりする。
お腹のマッサージは初めてで最初はこわばっていた筆者も、少しずつ身体がリラックス。それにあわせて指も深くめり込んでいくようだった。
「痛っ」
突然、下腹部を押されたときに痛みが走った。痛いということは、そこの内臓に悪い感情がたまっているということ。ワラヨンさんはこう言って笑った。
「ここは腎臓。ストレスや不安をため込むところよ。ちょっと心配事が多いんじゃない?」
マッサージ師は客の心理状態をも言い当ててしまうのか。私は熟練の技に感心しながら、ワラヨンさんがする肝臓のマッサージに耐えきれず、思わず叫んでしまった。
痛みと心地良さが交互に感じながら、1時間半のマッサージコースが終わった。いろんなマッサージを経験してきたが、こんなにお腹をかき回されたのは初めてだ。内臓が活性化され、身体全体が火照っている。マッサージを受ける前に比べて呼吸が深くなり、心なしか気持ちも落ち着いているようだ。
「うつ病や不眠症の人たちもチネイザンを受けた後は、ぐっすり眠れるようになるのよ」
ワラヨンさんはこう太鼓判を押す。
ラムラムーンで働くもう一人のマッサージ師、シリタニャラット・ケウディーさんもチネイザンの効果について「病気の80%は負の感情から生まれる。心が落ち着けば、病気も治癒できる。チネイザンを受けて、がん細胞の進行が止まったり、なくなったという事例もある」と話す。
ただ感情に変化が現れるのは、内臓が改善してから。チネイザンを受けるにしても1回だけでなく、数日置いて5回ほど受けるのがベストだという。内臓を通じて、心を治すチネイザン。タイの神秘がここにもあった。