土地占拠が298件から5件に
大規模農業・牧畜経営者がボルソナーロ氏を支持したもう1つの理由は、「土地なし農民運動」(MST)の活動をボルソナーロ氏が鎮めたことだ。
土地なし農民運動とは、貧困層が農地をもてるようになることを目指す、ラテンアメリカ最大規模の社会運動。地主が所有する広大な土地のうち使われていないところを見つけては集団でテントを張って占拠する。また所有を求めて裁判を起こす。根拠とするのは「土地は社会的機能を果たすべきである」という憲法第5条の文言。広い土地を所有しながら放置している地主の方が違法だ、という主張だ。
これに対してボルソナーロ氏は「国家は、民間の所有地を保護しなければならない」と発言。占拠者を立ち退かせるために軍を使うことも辞さないとした。同氏のツイッターによれば、同氏が大統領に就任した2019年の土地侵入・占拠の件数は5件。第1次ルラ政権下の2007年の298件や、同じく左派のルセフ政権下の2015年の182件と比べて大きく減ったという。
菊池氏は「土地なし農民運動は、大規模農業・牧畜経営者にとって悩みの種だった。ボルソナーロ氏は厳しい態度で臨んだ」と話す。
土地なし農民運動は1984年にパラナ州で立ち上がった。2009年時点で、ブラジル26州のうち23州に支部をもつ。会員同士で組合を作り、穀物や野菜、牛乳、ブドウジュースなどを作って売る場合もある。無農薬農法にこだわり、遺伝子組み換え作物の導入に反対している点も特徴的だ。
「左派は盗人だから」
ブラジル本国の決選投票の結果はルラ氏50.9%、ボルソナーロ氏49.1%。国内はくっきり二分された。
農業関係者のほかにボルソナーロ氏の支持者が多かったのが、キリスト教保守派である福音派と、軍や警察からなる銃推進派だ。ポルトガル語の「boi(牛)」、「biblia(聖書)」、「bala(銃弾)」の頭文字を取って、この3派を「BBB」と呼ぶ。
また積極的にボルソナーロ氏を支持するというよりも、ルラ氏率いる労働者党が嫌いだという人たちも多かったようだ。2003年から8年続いた第1次ルラ政権下で大規模な汚職がたびたび起きたからだ。菊池氏は「(左派の)労働者党が嫌いだという人たちに理由を聞くと、たいてい『あいつらは盗人だから』と答える」と言う。
大統領選の前には、両者の支持者がぶつかる暴力事件も頻発した。7月にはパラナ州フォスドイグアス市で、労働者党支部の財務担当者をボルソナーロ支持者が殺害。9月にはサンパウロ州イタニャエン市で、政治についての言い争いの末にルラ支持者が友人のボルソナーロ支持者を殺した。