多くの学生が精神病院送り
イランで抗議デモが続くきっかけとなったのは、22歳のクルド人女性マフサ・アミニさんの死だ。2022年9月13日、ヒジャブを適切に着けていないという理由で風紀警察に逮捕され、3日後に死亡した。警察に暴行を受けたといわれる。
アイーダさんは「抗議が3カ月以上も続くのは、1979年のイラン革命で親米の王政が倒され、(イスラム教シーア派の最高指導者が率いる)現在のイラン・イスラム共和国ができて以来初めてだ」と説明する。
抗議デモはイラン全土に広がった。デモの件数は2022年9月16日~12月20日の2カ月超で1192件にのぼる。女性だけでなく、男性やLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー=性的少数者)など多様な人たちの要求を含む大規模な運動となった。
デモで多数の死者が出ているのは少数民族の住む地域だ。アミニさんの出身地で多くのクルド人が暮らすクルディスタン州(イラン西部)や、イランでは少数派のスンニ派バルーチ人が住むシスタン・バルチスタン州(イラン南東部)など。デモに関連して死亡した502人の半数を占めるともいわれる。
抗議デモにかかわり逮捕された人は1万8452人(現在も3941人が拘束中)。フェメナで活動する女性も、わかっているだけで240人が捕まった。
アイーダさんによれば、イラン政府側の民兵や警官は抗議デモに参加する女性を逮捕する際に性暴力を振るう。ソーシャルメディアに投稿された動画には、警官が女性の胸や尻を乱暴につかんだり、髪を引っ張る姿が映っている。「拘束中にも警官から性暴力を受けたと話す女性もいる」とアイーダさんは憤る。
141の大学で抗議デモが起き、652人の学生も逮捕された。女子学生たちは公の場で髪をさらけだし、抗議デモのスローガン「女、命、自由」を掲げた。
アイーダさんが特に問題視するのは、抗議デモで逮捕された多くの学生が精神病院に送られていることだ。その目的は、反社会的な思想を改心させ、再教育するためだという。「どれだけ多くの学生が精神病院に送られたのか、はっきりとわかっていない」(アイーダさん)
批判の声をSNSで拡散を
自国民を弾圧するイラン政府に対し、国際社会も非難を強めている。米国務省は2022年10月6日、イラン政府高官や治安当局幹部7人を在米資産の凍結などの制裁対象に加えたと発表した。
また国連人権理事会も2022年11月24日、イランの人権侵害をめぐる調査団の設置を盛り込んだ決議を採択した。参加47カ国のうち、日本や欧米諸国の25カ国が賛成、中国やパキスタン、ベネズエラ、キューバなど6カ国は反対、16カ国は棄権した。
国連経済社会理事会も2022年12月14日、イランで女性や子どもの人権が守られていないとして、同国を「女性の地位委員会(CSW)」から追放した。この決議は、イランの活動家や米国の働きかけによって実現した。
アイーダさんは「イラン政府が自国民を弾圧していることに対し、国際社会からの批判の声はもっと大きくならないといけない。イランの人たちが政府に対する抗議活動を続けていることを、ソーシャルメディアで積極的に発信してほしい。今すぐにとはいかないが、イランの女性の未来が変わると信じている」と訴える。