野球をすると成績が上がる
「野球は人づくりのツールになる」と友成さんが感じたのは2012年にガーナを訪れていた時だ。
その前年に立ち上げたガーナ甲子園プロジェクトでは、10人のコーチをガーナの10州に派遣。1年にわたって野球を指導し、全国大会を開くというものだった。2012年の訪問は、1年間で選手がどれだけ成長したのかをモニタリングするためだった。
友成さんは野球を教えているモデル校を訪れた時、校長にこう感謝されたという。
「ミスター友成、ありがとう。野球をやっている子たちは規律正しく、みんな頑張っている。何よりみんな成績が良くなったんだ」
成績がアップしたのはこの学校だけではなかった。訪問した10校すべての校長が口をそろえて「野球をやっている子どもはみんな成績が良い」と言ったのだ。
友成さんは驚いた。と同時に、選手の成績がなぜ良くなったのかを考えた。そしてひとつの答えにたどり着いた。
「サッカーとは違い、野球は1球1球でプレーが止まる緩急のスポーツ。『緩』の時間にキャッチャーは配球を考え、野手は守る位置を変える。考えて予測し、その準備する。ここに人が成長するチャンスがある」
ガーナの訪問で感じたのは、成績が良くなるだけではない。人間性も育つことだ。
友成さんがグラウンドを視察した時、かつて指導した選手たちから学んだガーナ人コーチが子どもたちに野球を教えていた。
子どもたちは、間隔をとってきれいに2列に並んでキャッチボールを始めた。そんな時、ある子どもが暴投し、ボールが奥へと転がっていった。アフリカで野球を始めた子どもたちはたいてい、どっちがボールを取りに行くかで揉めて喧嘩になる。だがその時は、暴投された子どもがすぐにボールを拾いに走っていった。暴投した子どもはすぐに帽子をとって「とれなくてすまん」と謝り、相手から「ドンマイ」という言葉が返ってきた。
野球を通じて相手を思いやる心が育っていた。友成さんは子どもたちの姿を見て感動し、野球が人づくりのツールになると確信した。
良い勝者になった南スーダンの選手ら
アフリカ55甲子園プロジェクトの成果が垣間見えたエピソードがある。
タンザニアで2022年に開催された第10回タンザニア甲子園大会でのことだ。この大会は10回記念ということで、タンザニアのチームのほかに、南スーダンのチームも招待された。
南スーダンのチームは、身長2メートル近くの右腕投手と7色の変化球を操る左腕投手の2枚看板でタンザニアチームを圧倒。トーナメントを5連勝し、招待チームにもかかわらず優勝したのだ。南スーダンの選手たちにとって初めての国際大会であり、初めての優勝だった。
最後のアウトを取った時、南スーダンの選手たちは大喜びするだろうと友成さんは思った。だが優勝してもみんな、淡々と整列し、礼。相手と握手をしている。
「あれ、どうしたんだろう? 嬉しくないのかな?」
こう思って友成さんは後日、選手たちに「どうしてあの時、喜ばなかったのか」と尋ねた。すると驚く答えが返ってきた。
「グッドウィナーは相手のことをおもんばかって、勝っても喜びをぐっと抑える。相手と握手して、ベンチに戻ってから喜ぶんだ。ミスター友成がそうやって教えてくれたじゃないか」
友成さんは選手のこの言葉を聞いて、心から感動した。
「選手たちは感情をコントロールして、素晴らしいグッドウイナーの姿を見せてくれた」
友成さんは2022年、アフリカの指導者に対してこれまで実践してきた人づくり野球教育セミナーを一般企業の研修用にアレンジ。日本企業への研修セミナーも始めた。野球教育セミナーのノウハウを使って、経営者や管理職層の意識改革をサポートすると同時に、そこで収益をあげてアフリカの活動に使おうと考えている。
「私はもともとJICAの人間。したいのは人づくり。ゆくゆくはアフリカと日本の懸け橋となるような人を、野球を使って育てたい」
友成さんはこう未来を見据える。