フィリピン農業省は1月10日、赤タマネギと白タマネギが1キログラム420~600ペソ(約1000~1400円)で売られていることを明らかにした。これは世界平均の約7倍の値段。世界で最も高価なタマネギとなったことについて、アジア経済研究所の鈴木有理佳・主任研究員は「中間業者がタマネギを買い占めている。またそれと共謀する農業省の職員もいる」と語る。
オムレツインフレ危機
フィリピンのタマネギの収穫期は2~4月。国内のタマネギは2023年1月現在足りておらず、これが価格高騰の直接的な原因だ。フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領は1月10日にタマネギを輸入することを決めたが、輸入タマネギが国内市場に出るのは1月27日以降との見方が濃厚だ。
タマネギはなぜ、足りなくなってしまったのか。鈴木氏はこう指摘する。
「タマネギカルテルと呼ばれる流通業者がタマネギを買い占めている」
タマネギカルテルは、2~4月の収穫期に農家から1キログラム25~27ペソ(約60~64円)で買い占め、冷凍施設で保管。需要を制限しながらタマネギの値段を吊り上げ、莫大な利益を得る。
タマネギカルテルの存在は以前から指摘されていた。法務省は2015年、タマネギの流通業者や協会が共謀してタマネギを違法に販売していることを明らかにした。輸入業者などもここに含まれ、タマネギカルテルがフィリピン国内のタマネギ市場に大きな影響力をもつことがうかがえる。
「すべての農作物の取引には、カルテルと呼ばれる悪徳流通業者が存在する」
鈴木氏がこう指摘する通り、すべての農作物がカルテルの影響を受ける。これまでもドゥテルテ前政権時代に魚と豚肉が、マルコス・ジュニア大統領が就任してからは砂糖とタマネギが高騰中だ。卵の価格もここにきて上昇し始め、2022年と比べて約1.5倍となった。
ノーベル平和賞を受賞したフィリピン人ジャーナリストのマリア・レッサ氏が立ち上げた独立メディア「ラップラー」は、この卵やタマネギの高騰を「オムレツインフレ危機」と揶揄する。