「感度が低い」大統領
タマネギ価格の高騰の大きな原因は、農務相を兼務するマルコス・ジュニア大統領にもある。
マルコス・ジュニア大統領は農家を守るという保護政策を主張する。作物の研究やサプライチェーンの再構築を進め、国内産業を活性化させる。そのため輸入には後ろ向きだった。
だがそもそもフィリピンのタマネギの自給率は70~90%ほど。需要を満たすためにはタマネギの輸入は不可欠だ。にもかかわらずマルコス・ジュニア大統領はギリギリまで輸入しない方針を貫いた。これが原因でタマネギ価格は急騰した。
「マルコス・ジュニア大統領が目指していることはわかる。だが1年でタマネギの生産量が上がったり、買い占めがなくなったりすることはまずない。大統領は短期的な判断と中長期的な判断を間違えた」(鈴木氏)
マルコス・ジュニア大統領が農業相を兼務するとなったとき、一部の農家は喜んだ。疑惑だらけの農業省に大統領のメスが入ると期待したからだ。
だがふたを開ければ、相変わらずタマネギ農家は安く買いたたかれ、消費者は高く売りつけられる。改善どころか、市民の生活は悪化する一方だ。
「マルコス・ジュニア大統領は就任してから農業省に数回しか足を運んでないといわれる。国民の不満は高まるばかりだ」(鈴木氏)
国民の怒りに油を注ぐように、マルコス・ジュニア大統領は2023年に入って外遊に出発した。1月は中国とスイス・ダボスへ。2月には日本も訪れる予定だ。
「マルコス・ジュニア大統領が目指すのは、父親の故フェルディナンド・マルコス大統領の汚名を払拭すること。大統領選も、大統領になること(地位に就くこと)が目的だった。国民の生活よりも、海外を回ってマルコス復権をアピールすることの方が大切なのかもしれない」
鈴木氏はこう推測し、ため息をつく。
「マルコス・ジュニア大統領は一般市民への感度がとても低い(市民の生活感がわからない)。これがボンボン(マルコス・ジュニア大統領のあだ名)がボンボンたるゆえん。期待はしているが、今は不安の方が大きい」