カレーを5年食べ続ける
日本に帰国した後もミャンマーのことが忘れられずにいた保芦さんは、食生活からミャンマーに近づこうと試みる。
行きついたのはミャンマーカレー(ビルマ語で「ヒン」。ご飯のおかずになる煮込みの総称)だ。保芦さんは昔から大のカレー好き。ミャンマーのことも大好き。だからミャンマーカレーを作るようになる。
おりしも日本では2010年代中ばからカレーブームが到来。保芦さんは、都内にあるインド、スリランカ、バングラデシュ、タイなど世界各国のカレーを食べ歩いた。だがミャンマー料理の店は少ない。
「ミャンマーカレーはまだ、日本で認知されていない。だったら僕がミャンマーカレーを作って、ミャンマーのことを広める」
保芦さんが2014年に始めたのは、レトルトのミャンマーカレーの開発だ。まずは本場の味を学ぶことからと、日本に住むミャンマーの友人から作り方を教わる。何度も試作を重ねては改良を加えた。
苦節3年半、2018年に完成したのが「チェッターヒン」(チキンカレー)だ。タマネギをとことん炒め、手羽元を2本入れる。ミャンマー料理に欠かせないピーナツオイルを加え、日本人の口に合うようスパイスも調整。保芦さん自信の逸品だ。
保芦さんはチェッターヒンというビルマ語で販売することにこだわる。
「確かにミャンマーカレーとして売り出したほうが、もっと売れるのかもしれない。チェッターヒンなんて初めて聞いたら食べ物かどうかもわからないから。でもトムヤムクンはタイ語のままでも有名でしょ。僕はミャンマー料理をビルマ語で売って、ミャンマーを広めたいんだ」
このチェッターヒン。発売してすぐの2018年、マツコ・デラックスがテレビ番組で絶賛する。するとオンラインでの注文が殺到。ヤフーの検索ワードでも「チェッターヒン」という言葉が上位にランクインした。
「当時はロヒンギャの虐殺など、ミャンマーに関する暗いニュースが多かった。そんな時にチェッターヒンという言葉が注目された。ミャンマーの明るい側面を伝えられたことがうれしい」