「サッカーを通じて、女性やSC(ダリット=不可触民とかつて呼ばれた人たち)への偏見をなくしたい」。こう話すのはインドのビハール州ブッダガヤでサッカークラブFC Nonoを運営する萩原望さん(29)だ。ブッダガヤでコンサル会社の社員として働くかたわら、性別やカーストの違う子どもたちが一緒になってサッカーを楽しむ機会を提供する。
サッカークラブの7割は女の子
萩原さんはサッカー歴19年。立命館大学のサッカー部では副キャプテンを務めた。日本のNGOのスタッフ(現在は退職)としてブッダガヤに住み始めた翌年の2021年、個人でFC Nonoを立ち上げた。
FC Nonoが活動するのはブッダガヤの郊外にあるパチャティ村。萩原さんは毎日夕方5時から村の子どもたち約40人にサッカーを教える。
萩原さんが目指すのは、サッカーを使った女性差別の解消。FC Nonoでは女の子を積極的に受け入れる。女の子も男の子に混ざって一緒にサッカーを練習する。女性は家事だけしておけばいい、サッカーは男だけという古い考え方を変えたいからだ。
インドは女性の差別が根強い国といわれる。女の子は小さいころから家事を任され、学校に行かせてもらえないこともある。結婚する場合は、ダウリーと呼ばれる高額の贈り物を女性側が男性側に渡すという習慣もいまだに残る。
ブッダガヤで萩原さんが子どもたちにサッカーを教え始めた2021年3月、集まるのは男の子だけだった。女の子は家の中から出てこない。だがある時、村の人から相談を受けた。
「娘たちがサッカーをしたがっている。一緒にプレーさせてやってくれないか」
萩原さんは「もちろん」と女の子を受け入れた。それ以来、練習に参加する女の子が急増。今ではFC Nonoの選手の6~7割が女の子。女の子が男の子にサッカーを教えることも多いという。
女の子も自由に遊ぶことができる、という考えは少しずつ広まりつつある。萩原さんはある時、選手の親から「娘がサッカーに行ってしまい、食器洗いが終わらない」というクレームを受けた。これを聞いた女の子の兄や弟が、サッカーの練習が始まる前に皿洗いを手伝うように。今ではきょうだいみんなでサッカーを楽しんでいるという。
FC Nonoでプレーするようになって女の子たちにも少しずつ変化が生まれてきた。萩原さんはブッダガヤのあるガヤー県の孤児院でもサッカーを教えているが、上手な女の子の選手も連れていく。萩原さんと一緒に、孤児院の子たちにパスやドリブルの仕方を教えるのだ。
「家にこもっていた女の子たちが孤児院でサッカーを教え、他の子どもたちから感謝される。それにより女の子たちは大きな自信を得ている」(萩原さん)