ダリットへの偏見を変える
サッカーを使ってなくそうとしているのは女性差別だけではない。萩原さんはカーストにも立ち向かう。
ビハール州はインドの中でもひときわ保守的な地域だ。ダリットの子どもたちは、他のカーストの子どもと交わる機会はほとんどないという。
萩原さんはさまざまなカーストの子どもたちにFC Nonoに入ってもらい、カーストを超えた交流の場にすることを目指している。
だが現実は厳しい。
「サッカーの練習に来る子どもの95%はダリット。自分の子どもをダリットの子どもと遊ばせない親も多い」
こうしたカーストの分断をなくすとっておきの秘策が、FC Nonoで練習するダリットの子どもの一流サッカーアカデミーへのステップアップだ。萩原さんは、インドのトップレベルのサッカーアカデミー「リライアンス財団ヤングチャンプス」のサッカースカウトを招待し、子どもたちを選手としてリクルートしてもらおうと画策する。
リライアンス財団ヤングチャンプスは、アジア屈指の富豪のひとりで、リライアンス財閥の総帥でもあるムケシュ・アンバニ氏の財団が運営する。ここに入れば、ハイレベルの環境でサッカーができるうえに高校にも進学できる。食費、学費、寮費はすべて無料だ。
「ダリットの子どもがスカウトされれば、ダリットに対する見方が変わるはず。またFC Nonoの評価も上がって、他のカーストの子どもも入ってくる」(萩原さん)
萩原さんによると、ビハール州からリライアンス財団ヤングチャンプスにこれまで進んだ子どもはいない。ハードルは高い。
そこで萩原さんは2023年2月からクラウドファンディングを始めた。集めたお金で日本からプロのサッカーコーチを呼び、子どもたちを指導してもらうのが趣旨だ。またインド人のボランティアコーチもプロのコーチから学び、今後の指導に生かす。練習の質が上がれば、子どものアカデミーへの進学も見えてくるというわけだ。
「インドの憲法はカーストによるダリットの差別を禁止している。女性への犯罪も厳罰化している。でもカーストや女性への差別意識は多くのインド人の心に深く根付いている。子どもたちには性別やカーストに関係なくサッカーを楽しんでもらい、古い価値観を変えてほしい」