ASEAN各国から患者受け入れ
こうした現状を受け、新設するアジア小児医療センターが注力するのは「がんを早期に発見する」体制を整えることだ。佐藤さんは「がんが早く見つかっていたら救えた子どもも当然いる。新しいセンターの認知度を上げ、多くの患者を診察する。がんを早期に発見し、その後もセンターに定期的に通える仕組みをつくりたい」と将来を描く。
アジア小児医療センターの病床は200床と、既存のセンターの2倍以上になる予定だ。小児がんに加えて一般の小児外科と、消化器や泌尿器の病気を抱える患者も診察していく。
また同センターは将来的に、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国から積極的に患者を受け入れる。とりわけ開発が遅れ、またジャパンハートがすでに拠点を置くミャンマーやラオスの患者を想定する。
佐藤さんは「提携先である両国の病院から重篤な患者を移す例はあるが、年間1人程度。2030年までに、現地で治療できない患者を年間10〜20人治療する体制を整える」と話す。
途上国の生存率はたった20%
ジャパンハートが大切にする思いは「生まれた国や経済環境にかかわらず、すべての子どもが医療を受けられる社会に」だ。
同団体が強みとする小児がんは、先進国と途上国の生存率の差が大きい病気のひとつ。佐藤さんによると、小児がんの5年生存率は先進国で80%以上だが、途上国では20%程度にとどまる。
この格差を限りなくゼロにするため、ジャパンハートはカンボジアで2008年から、高度な治療を受けられない子どもを対象に無償で診察を続けてきた。地方の国立病院の手術や診察を支援することから始まり、カンボジア人の医療従事者を育成する目的で2016年にオープンしたのが、ジャパンハートこども医療センターの前身であるジャパンハート医療センターだ。
このセンターには連日、経済的な理由で治療を諦めかけた子どもたちが訪れる。
2021年の12月に入院したダリンちゃん(当時1歳)は、腎臓がんの一種であるウィルムス腫瘍を患っていた。腹部の腫れに気づいた母は初め、別の病院に連れて行った。ところがMRIで腎臓の腫瘍が疑われて同センターに転院。左腎臓を摘出する手術と抗がん剤の治療を続け、翌年の9月に退院した。
日本円で125万円かかった治療費は無料。ダリンちゃんの母は「治療費が全額かかっていたら、治療できずに田舎に帰っていた」と話す。
佐藤さんは言う。「病気がわかると他の病院では『(高額な)治療費が払えますか』とまず聞かれる。払えなければ、治療できないのは当たり前。そうしたなかで無料で治療が受けられるジャパンハートの病院は、患者にとって最後の砦だ」