ロシアのウクライナ侵攻から1年が経ったことを受け、日本のNGO難民を助ける会(AARJapan)は、ウクライナの国内避難民と隣国モルドバに逃れた難民への支援状況についてのオンライン報告会を開いた。同団体はこれまで、極寒のなか電気が十分に供給されないウクライナ西部にある福祉施設などに発電機を提供してきた。AAR東京事務局の藤原早織さんは「届けば涙を流して喜んでくれる人がいる」と振り返る。
暖房が使えない
報告会に登壇したAAR東京事務局の中坪央暁さんが1月中旬に訪問したのは首都キーウ。「ホテルや会社は通常通り営業し、食料や生活用品はポーランド側から十分に供給されていた」と述べた。
ただ市民は日常生活を送っているようにも見えても、ここが戦時下にあると痛感した出来事もあったという。「突然鳴り響く空襲警報でホテルの地下に駆け込んだときもあった。破壊された建物を前に、戦死した兵士の葬列が途切れることなく続く光景も目にした」(中坪さん)
極寒のウクライナで市民が特に苦しむのは、電力不足で暖房設備が十分に使えないことだ。ウクライナの発電所をロシア軍が攻撃した2022年10月以降、ウクライナ各地で停電が頻発。中坪さんが滞在したホテルでも、電気が一晩中使えない日もあった。
こうした状況から、ウクライナ西部のチェルニウツィ州でAARは、障がいのある国内避難民が身を寄せる福祉施設に発電機11台を届けた。橋渡し役を務めたのは、障がい者団体を支援する団体「リーダー」だ。藤原さんは「リーダーの代表を務めるバレンティーナさんが、届けられた発電機を見て涙が出たと話してくれた」と明かす。
軍事費が最優先に
このほか、キーウの南100キロメートルに位置するボフスラフにある知的障がい者親の会「ジェレラ」が運営する福祉施設にも、発電機1台とソーラーパネルの購入費を送った。施設のマネージャーであるオリハさんは「発電機が届き、(知的障がい者の)みんなが安心して過ごせているようだ」と安堵する。
ジェレラが提供するのは、障がい者を在宅で介護する家族に対するケア。自然豊かな環境にある一軒家に障がい者を10日間預かり、スタッフが介護を代行。その間、家族にリフレッシュしてもらうものだ。これを「レスパイト・ケア」と呼ぶ。
軍事費の捻出が最優先となったウクライナ政府からの助成金が滞るなか、AARは食費や人件費などレスパイト・ケアにかかる費用を支援する。「戦時下で健常者でもストレスがたまる状況で、攻撃的になる障がい者も少なくない。レスパイト・ケアで家族のストレスを軽減してもらえれば」と藤原さんは話す。