インフレ率世界最悪のベネズエラ、庶民が生き抜く術は「暗号通貨」にあり

世界最大の暗号通貨取引所であるバイナンスの画面。暗号通貨へのアクセスをもてるかどうか、が世界最悪のインフレが続くベネズエラで生活するうえでは重要な意味をもつ

経済が完全に破綻し、過去10年にわたってほぼ毎年インフレ率が世界ワーストの南米ベネズエラで、庶民にとって生き抜く術がある。米ドルと連動した暗号通貨(ステーブルコイン)のひとつである「USDT」へのアクセスだ。USDTの最大のメリットは、ベネズエラの法定通貨ボリーバルが暴落しても影響を受けないこと。30代のベネズエラ人女性エレナさん(仮名)は「お金を持っておくにはUSDTはとても良い」と語る。

3カ月で40%も暴落

庶民にとってUSDTはインフレの影響を可能な限り免れる有効な手段のひとつだ。その理由は大きく2つある。

1つは、USDTはドルと実質的に同じ価値をもつため、ボリーバルのように価値が下がらないからだ。

エレナさんによれば、ベネズエラの主食であるトウモロコシ粉1キログラムの値段は1年前が約1.3ドル、いまは約1.8ドルだ。値上げ幅は1年で50セントにとどまる。ちなみに凄まじいインフレ(2018年は6万5000%、2022年は200%に下がった)が続く同国では品物の値段はドル表示が普通だ。

トウモロコシ粉1キログラムの値段をボリーバルに換算すると、値上げ幅は雲泥の差だ。1年前は約5.6ボリーバル、いまは約43.4ボリーバル。1年で8倍近く跳ね上がった。

過去3カ月のボリーバルの対ドル相場はこうだ。2022年12月13日は1ドル14.09ボリーバル。1カ月後の1月13日は19.03ボリーバル。その2カ月後の3月13日は24.12ボリーバル。たったの3カ月でボリーバルの価値は40%下がった計算になる。

ボリーバルの暴落は、給料の価値が目減りすることを意味する。ベネズエラでは給料はボリーバルで支払われる。エレナさんは「給料を貯金できる人なんて誰もいない。食べ物を買うので精一杯。それどころか生き延びることすら難しい」と話す。

生活ができないためベネズエラでは1月27日時点で約717万人が難民として国外へ逃れた。これは国民の4分の1近い数字だ。

現金のドルは入手できない

USDTがインフレの影響を免れる手段になるもう1つの理由は、ドルの現金に比べて、はるかに手に入れやすいことだ。海外から送金されたUSDTを受け取る場合、暗号通貨取引所のアカウントさえ作ればいい。必要なのは国内の銀行口座とスマホだけだ。

対照的にドルを現金で受け取る場合は、ドル口座を銀行に開かなければならない。ただたとえドル口座を持っていても、ドルを引き出すことは限りなく不可能に近いという。

庶民が定期的にドルを得る方法は、オンラインで秘書をするなどして外国人と一緒に働くか、難民となってベネズエラから出た家族などに送金してもらうか、の2つがある。

エレナさんは「外国人と組んで働く場合は、ドルを現金ではなく、USDTで送ってもらうのが一番簡単。海外からベネズエラに送金するにはいろいろな方法があるけれど、USDTが一番ポピュラーだと思う」と話す。

とはいえ、ドルで稼げる仕事に就くチャンスはめったにない。エレナさんは「外国人と働く人は、お金を持っていることを周りに知られると恐喝されかねない。だから自分の仕事についてあまり話したがらない。ドルを持てるのはほんの一部のラッキーな人たちだけ」と言う。

ドルの現金に比べて隠しやすいこともUSDTのメリットだ。ベネズエラで出回るドルの多くは、違法に採掘した金(ゴールド)と交換するなどして得た紙幣。エレナさんは「ベネズエラ政府は国民がドルを持つことを認めていない。持っているのを見つかったら、警察や警備隊に奪い取られる。理不尽だ」と語る。

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