暗号通貨で買い物も
USDTはまた、ベネズエラ国内での使い勝手も良い。ベネズエラの都市部では、USDTで直接支払いができる店が多いからだ。エレナさんは「スーパーから服屋、電気屋、菓子屋まで、店の大きさに関係なく使える」と言う。
USDTでの支払いで客と店員が使うのが、暗号通貨の取引サービス「ペイ」のアプリ。世界最大の暗号通貨取引所であるバイナンスが提供するものだ。
客は店内の壁やカウンターなどに貼られたQRコードを自身のスマートフォンで読み込み、店員のバイナンスのウォレット画面を開く。そして金額を打ち込んで送金する。手数料はゼロ。バイナンスから店員にメッセージが届けば支払い完了だ。「すごく速くて簡単」(エレナさん)
とはいうものの、エレナさんはUSDTを持ち続けることに不安もあるという。「暗号通貨を扱う大きな会社のひとつであるFTXが(2022年11月に)経営破綻した。いつかバイナンスもそうなるかもしれない。そうなったら生きていけない」と漏らす。
粉ミルクに58枚の札
ただ、たとえUSDTでお金を持っていたとしても、エレナさんはデジタルボリーバルでの支払いを好む。「必要なときに必要な分だけUSDTからデジタルボリーバルに変えてすぐ使ってしまえば問題ない」(エレナさん)
デジタルボリーバルの支払い方法でメジャーなのは、銀行が提供する口座管理アプリを使うことだ。「メルカンティル・モバイル」や「ベネズエラモバイル銀行」などがある。このほかデビットカード決済も一般的だ。
だがインターネット環境が整っていないベネズエラの田舎ではいまだに、現金でのやりとりも健在だ。その場合、大量のボリーバルの紙幣を持ち歩かなくてはならない。たとえば粉ミルク1キログラム(8リットル分)が欲しかったら、一番よく使う5ボリーバル札だと58枚を用意し、その値段の290ボリーバル(約1600円)を払うことになる。
エレナさんは「お札を運ぶときは大きな袋に入れる。でも数えるのにすごく時間がかかるから、店の人に嫌がられる。だから現金で買うのは食べ物ぐらい」と話す。