国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンは4月12日、2011年から続く紛争と2月の大地震で壊滅的な被害を受けたシリア北西部で学校を再建する「マイルストーン・プロジェクト」の説明会をオンラインで開いた。登壇した同団体のヨルダン駐在員、渡邉裕子さんは「昨年(2022年)は5校を再建し、4000人が安全な校舎で教育を受けられるようになった。だが修復が必要な学校はまだまだ多い」と訴えた。
空爆と地震で半分以上の学校が損壊
ワールド・ビジョン・ジャパンが学校を再建する地域は、シリア北西部のアレッポ県とイドリブ県だ。ここには、「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起きた2011年以降、シリア全土から多くの国内避難民が逃れてきた。2023年3月時点で人口450万人のうち国内避難民が290万人を占める地域もあるという。
シリアでは12年以上にわたって紛争が続く。渡邉さんによると、北西部では半分以上の学校が空爆で破壊され、そのままの状態だという。安全であるべき学校が標的にされる理由について「学校は水道やトイレなどの設備も整い、また頑丈な建物なので戦闘員の拠点になる。それを防ぐためだ」と渡邉さんは説明する。
こうした状況に追い討ちをかけたのが、2月の大地震だ。震源地のトルコ南部とシリア北西部では特に大きな被害が出た。両県の教育局が実施した調査によれば、既存の1250校の半数近い550校以上の学校が損壊した。23万人以上の子どもに影響が及ぶという。
ボロボロの校舎にあふれる子どもたち
「教室の窓やドアは壊れ、冷たい風が吹き込む。電気もないので薄暗く、机やいすも不十分だ」。ワールド・ビジョンのローカルスタッフであるアフメドさんは現在の学校の状況を「子どもにも先生にも辛い場所」と形容する。
そもそも教室の数も圧倒的に足りない。避難先であるアレッポ県、イドリブ県、ダマスカス郊外県には学齢期の子どもの94%(690万人)が集中する。子どもの人数と利用可能な教室数を計算すると1クラス178人になるという。
「学校は2部制や3部制をとる。だがそれでも教室は子どもたちであふれかえっている」(アフメドさん)
限られた教室に子どもが殺到する一方、学校に行けない子どもも245万人いる。
また渡邉さんによると、中退の危機にさらされる子どもも160万人。「遠くから学校に通う子どももいる。通学路に不発弾があったり、また遠いぶんだけ誘拐の危険も高くなる。通学を諦めるケースも珍しくない」(渡邉さん)
学校のトイレが使えないことも、就学率を下げる大きな要因だ。渡邉さんは「男子は外で済ませられるが、女子や障がいのある子どもはそうもいかない。トイレがない学校には通わせられないと考える親も少なくない」と説明する。