【タイ選挙特集②】王室改革を阻む不敬罪、起訴件数はここ3年で200回以上と過去最悪

チェンマイで働く人権弁護士のビー。不当に起訴・拘束された活動家の弁護をする。「不敬罪は恣意的に使われている」と批判する

不敬罪は国王の意向か

だが王室改革には大きな壁が立ちはだかる。刑法112条(不敬罪)だ。王室を侮辱した者は3~15年の禁固刑が科される。ビーはこう話す。

「不敬罪は誰もが警察に通報できる。国王を侮辱する人を探す王室派のグループもあるので、活動家は国王改革を口に出しづらい」

不敬罪の基準があいまいなのも問題だ。

前国王の愛犬についての皮肉をSNSに書き込んだとして2015年、27歳の青年が不敬罪で起訴された。ワチラロンコン王のようにクロップトップを着てデモに参加していた16歳の高校生も、2020年に起訴された。国王を直接批判していなくても起訴されるケースが相次いでいる。

不敬罪での起訴は国王の意向が大きくかかわっているとの見方が強い。プラユット首相は2020年7月、「国王は優しい。不敬罪を適応するな、と言われた」と述べた。民主化デモが始まった2020年2月からの数カ月は実際、不敬罪で起訴される人はゼロだった。

だがプラユット首相は2020年11月、一転して「デモ参加者に対して法的措置を厳しくする」との声明を発表。以降、不敬罪で起訴される人が急増した。

「2020年11月以降に不敬罪で起訴されたのは200人以上。これは歴史的に見ても記録的だ」(ビー)

不敬罪以外にも軍政は、集会法や緊急事態宣言を乱用して、デモ隊を拘束、起訴する。それが民主派の活動に大きな打撃を与えている。

民主活動家のリーダーである弁護士のアノン・ナムパー氏や学生活動家のパリト・チワラク氏といったリーダーは不敬罪も含めて30以上の罪で訴えられた。保釈された後も毎日、裁判所に行かなければならない。「リーダーたちの発言が少なくなり、デモも減退している。法律を乱用して言論封鎖するのが奴らの常套手段だ」とビーは心情を吐露する。(続く

不敬罪(刑法112条)の廃止を求めるプラカード(バンコクで撮影)

不敬罪(刑法112条)の廃止を求めるプラカード(バンコクで撮影)

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