企業に反対すれば警察から脅しも
優遇を受ける財閥はやりたい放題だ。ジョーが例に挙げるのはアジア最大の製糖会社ミットポン。
ミットポンはタイ国内で年間200万トンの砂糖を生産する。現在は事業を多角化させ、ショ糖を搾り取った残りかす(バガス)を燃焼させるバイオマス発電の事業も進める。
だが砂糖工場とバイオマス発電所の建設は地域住民から歓迎されていない。ミットポンが建設を進める東北部のチャイアプン県の2カ所の住民は2021年3月、工場の建設の差し止めを求める請願書を県に提出した。バイオマス発電による大気汚染と水資源の枯渇を心配してのことだった。
ジョーらグループが実施したアンケートによると、約7割の住民はミットポンから説明を受けておらず、約9割が工場建設に反対しているという。
「ミットポンは説明会を開催しても、専門用語や英語を使って(交えて)解説するなど、住民が納得するように努めてこなかった。住民の不信感は強い」(ジョー)
住民らは工場建設反対のグループを立ち上げ、デモを始めた。すると警察がデモ参加者を脅迫するようになったという。
「『デモを辞めなかったら、(コロナ禍による)非常事態宣言への違反で逮捕するぞ』と多くの住民が警察から脅された。軍政がミットポンに協力しているのは間違いない」(ジョー)
政府や王室から優遇を受ける財閥が利益を上げる一方、市民は蚊帳の外だ。タイは世界的に見ても貧富の差が大きい国のひとつ。タイでは1%の富裕層が国の67%の富を占めていると、欧州の金融機関クレディ・スイスは2019年に報告した。
ジョーは5月14日の選挙に向けてこう語る。
「私にとって特定の支持政党はない。だが次の選挙では民主派の政党(タイ貢献党か前進党)に投票する。軍政から民政に代わらないといけない。思ったことを口に出せるような環境を作ることが必要だ」(続く)