コメ100キロを届ける
活動が広がるにつれて苦労もあった。食材費の負担が重いことだ。レフシャンさん自身も、難民申請が通らないまま4人の子どもを育てるシングルマザー。健康保険にも入れず、病院にかかれば治療費を全額負担しなければならない。
そんなときに発生したのが、2022年2月のトルコ・シリア大地震。2000人ほどのクルド人が暮らす川口市にも、親せきを頼ってクルド人が逃れてきた。「来日した人たちは就労資格がないので働けない。日本語もわからない。買い物も外食もできない状況だった」(レフシャンさん)
そんな在日クルド人の状況を聞き、救いの手を差し伸べたのは、コメと野菜でつながる百姓の会の発起人で、農業ジャーナリストの大野和興さんだ。
コロナ禍をきっかけに2020年に立ち上がったこの会は、東京・山谷の野宿者を助ける団体や、子ども食堂を運営する団体、移住者と連帯するネットワーク(移住連)を通じて食材を届けてきた。賛同した農家がコメや野菜を提供し、農家以外の会員が送料を負担する形だ。
大野さんはすぐに、会の仲間に連絡をとった。新潟県上越市のコメ農家は「100キロのコメならすぐに送れる」と返した。商品としても十分に価値のある有機米。大野さんはこの時のことを「みんな根っからの百姓。『自分たちが作ったコメを満足に食べられない人がいるのは、心が落ち着かない』と言っていた」と明かす。
その後も次々に支援の品が集まった。千葉県成田市の野菜農家からはニンジン、ジャガイモ、サツマイモ。山形県長井市の養鶏農家からは、放し飼い(平飼い)で育てた鶏の卵が送られてきた。
こうした食材はハニムのだいどころで提供する料理に使うほか、レフシャンさんが食べ物に困る川口市のクルド人およそ20人に配った。今でもコメや野菜が定期的に届くという。レフシャンさんは「震災後に来日したクルド人は自炊するしかない。食材を送ってもらい、本当に助かった」と感謝する。