
5月14日に実施されるタイの総選挙で注目ポイントのひとつとなるのが、王室改革が進むかどうかだ。タイの国王は政界と経済界では大きな影響力をもつとされる。司法界はどうか。不敬罪で起訴された人などを助けてきた女性弁護士の思いとは。(第1回はこちら)
裁判官は国王に忠誠誓う
車が行き交うタイ・バンコクの大通り。そこから一本入った閑静な住宅街に、女性弁護士であるノイの事務所がある。
ノイは、不敬罪やコロナ禍の非常事態宣言で不当に拘束された人たちを支える弁護士だ。軍政に反対するデモに参加するなど活動家でもある。
タイの司法制度の問題についてノイはこう語る。
「国王の名の下に行われるのがタイの裁判。憲法裁判所も含めて、タイの裁判官はすべて国王が任命する。判決が国王の意向に影響されるのは避けられない」
裁判官は就任する際、国王に忠誠を誓う。裁判の議事録は国王に対して使われる特殊な尊敬語で書かれ、法廷には国王の大きな写真が掲げられる。
料理番組に出たら失脚
国王の影響を強く受けるタイの裁判所で問題になるのが、首相に対する憲法裁判所の有罪判決。いわゆる司法クーデターだ。
「2007年の憲法改正から、軍事クーデターと並んで司法クーデターが政権交代の手段となっている」とノイは言う。タイでは2007年以降、3回の司法クーデターが起きた。
サマック首相は2008年、憲法裁判所から違憲判決を受け、首相の座を追われた。料理番組の出演料を受け取ったことが、首相の副業を禁止する憲法に違反すると判断されたためだ。2014年には、国家警察長官に親せきを起用したとしてインラック首相が辞任に追い込まれた。
注目すべきは、追い落とされたすべての首相がタクシン派だったこと。タクシン派とは、2000年代に絶大な人気を得たタクシン氏(2001~06年に首相)を支持するグループ。市民から熱狂的な支持を受けるタクシン氏は、反対派から「反王室だ」と批判されていた。