財閥の力を弱めたい
この独占状態を打開するために、前進党は今回の総選挙で躍進を目指す。掲げる重要な公約のひとつが、国軍の政治への関与をなくすための法改正だ。
国軍は現在、26人から成る「防衛評議会」をトップとする。防衛評議会は国防省の内部にあり、国防相が議長を務める。だが評議会のほとんどのメンバーを陸海空の軍人が占め、実質は政府から離れた存在だ。政府のコントロールが効かない国軍はこれまで繰り返しクーデターを起こしてきた。
前進党は、より民主的な憲法への改正を目指す。また防衛評議会を解散させ、実質的にも、国軍を国防省の管轄に収めることを公約に掲げる。
「憲法を改正するには議会の承認と国民投票が必要。簡単ではない。だが今回の総選挙で前進党を筆頭に民主派の政党が議席の多数をとれば、それは可能」
プティタさんはこう意気込む。
前進党はまた、財閥や大企業による産業の寡占の打開も目指す。チャワリットさんが例に挙げるのがビール業界だ。
ビール市場は今、「シンハー」や「リオ(レオ)」を生産するブンロート・ブリュワリーと、「チャーン」を生産するタイ・ビバレッジの寡占状態だ。この2社で国内市場の9割以上を占める。
この寡占状態を作り上げたのが、財閥を優遇する法規制だ。タイではこれまで、ビールの醸造許可を得るのに1000万バーツ(約3900万円)の資本金と年間10万リットル以上の生産量が求められた。
前進党は2022年、ビール醸造の規制を緩和する法案を議会に提出。このプレッシャーが効いたのか、親軍政党が別に出した規制緩和案が2022年末に可決された。資本金や生産量の条件は緩和されたが、新たに難しい手続きが加えられた。
「新規参入のハードルは依然高い。企業の独占を許す法を廃止するには、財閥の後ろ盾を受ける親軍政党に選挙で勝つしかない」(チャワリットさん)