ケニアのマサイ族の集落で、ゾウが畑を荒らさないよう、畑の周りに並べた巣箱でミツバチを育てるプロジェクトが立ち上がる。ゾウは鼻や耳を刺されると痛いためミツバチを恐れる。このプロジェクトの発起人のひとりで、東京都立大学大学院で野生生物管理を学ぶ赤石旺之さん(24)は「ゾウを追い払おうとした人間がゾウに殺されることもある。ゾウと人間の対立をなくしたい」と意気込む。
10メートルおきに巣箱100個
プロジェクトサイトは、ケニア南西部にあるオロイスクット自然保護区。首都のナイロビから車で6時間ほどの場所にある。面積は約2万3000エーカー(八王子市のおよそ半分)。野生のゾウをはじめ、キリン、シマウマ、ライオンなどが暮らす広大なサバンナだ。
プロジェクトの恩恵を受けるのは、保護区内に暮らすマサイ族だ。1200世帯ほどが、いくつかの集落に分かれている。ほとんどが農家。トウモロコシを栽培したりウシやヤギなどを育てたりする。赤石さんは「小さな売店はあるものの、ほぼ自給自足の暮らし。だから野生動物から作物を守ることは大切だ」と話す。
オロイスクット自然保護区で赤石さんらは、ミツバチの巣箱を畑の周りに並べる。木でできた巣箱の大きさは縦横が1メートル、高さが40センチほど。出入り口となる小さい穴が複数空いている。これを、人の顔ぐらいの高さの木の枝などにワイヤーで吊るす。ゾウがよく通る場所をふさぐ形で、10メートルおきに100個ほど設置する。
巣箱に住まわせるミツバチは、保護区に元から生息する種類だ。木のうろや岩陰などに巣を作る習性がある。住まわせるためには、ミツバチがえさとする植物の近くに巣箱を置き、女王蜂が入るのを待つ。ミツバチが巣を作りやすいよう、箱の中には仕切り板を入れる。
赤石さんは「群れが大きくなれば自然に別れて、隣の巣箱に移っていく。また人の手で他の巣箱に女王蜂を移すこともできると聞いた。ただ、養蜂のことはまだ勉強し始めたばかり」と言う。