タイの政局が混迷を深めている。2023年5月の下院選挙で第1党となった革新派の前進党は連立工作に苦戦中だ。前進党は今後どうするのか。チェンマイ第8小選挙区から当選した同党のパタラポーン・リーラパット下院議員に話を聞いた。
――上院議員の反対票により前進党のピタ党首は首相に選ばれなかった。これをどう受け止めるか。
「この事態はある程度予想していた。大きな失望はない。だがこれは完全に民主主義に反する。(軍部が指名した)上院議員が首相指名選に加わることを、2017年に改正された憲法第272条が認める限り、下院第一党の党首が弾かれることはまた起きるだろう」
――ピタ党首は、メディア企業の株を保有していたとして現在、憲法裁判所から議員資格の一時停止の処分を受けている。今後の判断では議員資格を剥奪されるかもしれない。これをどう考えるか。
「ピタ党首が株をもつメディア企業のITV(テレビチャンネル)は、10年以上も番組を放映していない。もちろん選挙期間中もだ。こうした事実を踏まえても議員資格が剥奪されるのはおかしい。だが前進党としてはどうにもできない。今は憲法裁判所の判決を待つのみだ」
――下院第2党のタイ貢献党が、前進党を中心とする「野党連立の枠組み」から脱退すると発表した。前進党は第1党にもかかわらず、政権をとれない可能性が出てきた。タイ貢献党の動きをどうみるか。
「タイ貢献党とは、民主的な憲法への改正や徴兵制の撤廃など23の項目で合意していた。不敬罪の見直しといった王室にかかわるものは含まれていない。にもかかわらず、首相指名選で上院議員の票が得られないからといって連立の枠組みから脱退するのは納得できない。失望している。
だがこれを予想していなかったわけではない。なんでも起こりうるのがタイの政治だ」
――ピタ党首が議員資格を一時停止され、タイ貢献党も連立の枠組みを脱退した今、前進党はどんなアクションをとっていくのか。
「前進党はまだ、タイ貢献党との連立の枠組みを維持することを諦めたわけではない。今後も、一緒に民主政権を作っていくようオファーを出し続ける。だがもし、タイ貢献党がタイ誇り党や親軍政党と手を結ぶのならば、前進党は野党となる。
選挙で勝ったにもかかわらず、不完全な憲法のせいでまた野党にならなければならないのは、正直にいって苦しい。だが結局のところ、与党だろうが野党だろうが我々はできる限りのことをするだけだ。
前進党の強みは(反軍政や地方分権、大企業の独占の打破といった)政策であり、政治的立ち位置だと考える。この姿勢に、国民も期待しているし、信頼してくれている。政治的な姿勢を変えてまで、政権争いをするつもりはない。政策で勝負する」
――前進党の看板政策である「不敬罪の見直し」は今後も掲げていくのか。
「不敬罪の見直し(刑法の改正)は絶対に必要だ。不敬罪(刑法第112条)は基準が不明瞭。個人が自分のフェイスブックに『とても勇敢、とても聡明、ありがとう』と書き込んだだけで、6年の実刑判決を受けるくらいだ。
(タクシン派といわれる反独裁民主戦線の男性が2022年4月、不敬罪で6年の懲役刑を言い渡された。この男性は自身のフェイスブックのアカウントに、タイ国王が取り仕切るタマサート大学の卒業式に学生が参加しなかったというニュースのスクリーンショットを掲載。「とても勇敢、とても聡明、ありがとう」というコメントを書き込んだ。このコメントは以前、国王が王室支持者の男性にかけた言葉だった)
軍政から脱却し、地方分権を進め、大企業の独占を打破する。それまで前進党が政治的な姿勢を変えることはない」