インド・ラダック自治区にあるメンツィーカン診療所で笑顔を見せるチベット医療のレクシェイ・チョーツォ医師(右)とアシスタントのラクパ・ツェリン医師(左)。2人ともチベット医学天体科学研究所の卒業生だ
インド北部に3000年の歴史をもつ「チベット医療」がある。身体には3つのエネルギーが流れていると説くチベット仏教の考えをベースにしたもので、手首に指を当てて診断し、それに合った数十種類の薬草を混ぜた薬を処方するのが特徴だ。ganas記者がインドのラダック自治区チョグラムサー地区にあるメンツィーカン診療所を訪問し、チベット医療を体験した。
3本の指で触診
メンツィーカン診療所のレクシェイ・チョーツォ医師は、両手の人差し指、中指、薬指の3本の指を、患者である私の両手首に当てて目をつぶる。マントラのようなものを唱えながら、指先に全神経を集中。数秒後に目を開けたレクシェイ医師は、私にこう尋ねた。
「脈拍が少し早く、体が熱っていますね。昨日しっかり寝ましたか。深酒は身体に良くないですよ」
私は前日、インド人の友人らと遅くまでカシミールのビール「ゴッドファザー」を飲んでいた。レクシェイ医師は私の不摂生な生活をほんの数秒で見透かした。
チベット医療の大きな特徴は、チベット仏教の考えに基づいていることだ。身体にはルン、ティーパ、ベーケンと呼ばれる3つのエネルギーが流れており、そのエネルギーのバランスが崩れた時に病になる、とチベット医療では考える。
手首の脈をとる触診では、人差し指、中指、薬指をそれぞれ、皮膚、筋肉、骨の深さまで沈み込ませる。これによって身体に流れる3つのエネルギーを読み取るのだ。
前日の深酒が祟ったのだろう。私は熱を司るティーパが過剰になってエネルギーのバランスが崩れている、とレクシェイ医師は診断した。