インフレ140%超のアルゼンチンで極右候補が新大統領に、アジ研研究員「国民はドラスティックな改革求めた」

12月10日の大統領就任式で「アルゼンチンに新時代が始まる」と宣言したミレイ大統領(中央)。写真はHonorable Cámara de Diputados de la Nación Argentinaから引用

用紙があればもっと票をとれた

全体1位で大統領選に出馬したミレイ氏だが、5人の候補者で争った第1回投票では中道左派のセルヒオ・マサ経済相に6.79ポイントのリードを許して2位。だが、当選の条件である「有効票の45%、または2位に10ポイントの差をつけて40%を得ること」を満たす候補者がおらず、マサ氏とミレイ氏の2人が決選投票に。決選投票でミレイ氏は得票率56%で逆転した。

決選投票でもミレイ氏は地方で圧倒的な強さを見せた。コルドバ州での得票率は74.05%。これは、両候補が州ごとに集めた得票率で最高の数字だった。

1回目の大統領選で4位と決選投票に進めなかったコルドバ州のスキアレッティ知事の票がミレイ氏に流れたことも大きかった。菊池氏は「ここで圧倒的な差をつけたことが、ミレイ氏が逆転できた勝因になった」と説明する。

もうひとつの勝因は、中道右派連合「改革のために共に」の候補の票を上乗せできたことだ。1回目の投票が3位で脱落した同連合のブルリッチ元治安相と、同連合に大きな影響力をもつマクリ元大統領がそろってミレイ氏への支持を表明。マクリ氏は、決選投票に挑む選挙経験の乏しいミレイ陣営を「投票用紙の準備面」で助けたという。

アルゼンチンの投票の仕方は日本と大きく異なる。行政が用意した投票用紙に書かれた候補者の名前に丸をつけるのではなく、投票所に置かれた「候補者の名前と写真付きの紙」を封筒に入れる。この紙(投票用紙)は各候補者が政党交付金を使って用意するという。

だが菊池氏によると、2021年に設立した自由前進(ミレイ陣営)には選挙経験のない人が多い。予備選の際も各投票所に十分な数の投票用紙を配れなかった。「投票用紙があれば、ミレイ氏は予備選でもっと票をとっていたと指摘する声もあった。投票用紙を不正に抜き取られないよう監視する立会人の配置も不十分だった。決選投票では、こうした弱点をマクリ陣営のノウハウをもって助けた」

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