ガボンは「中部アフリカが民主化する希望」となるのか、2023年8月クーデターの真実

中部アフリカに位置するガボンの首都リーブルビルは大西洋に面する大都会で、人口の約半数が居住するとされる。リーブルビルはフランス語で「自由の街」を意味し、解放された奴隷が1849年に建設した。写真は奴隷解放を象徴する像(写真は森口氏提供)

マリ、ブルキナファソ、ニジェール……2020年代に入ってサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカで軍事クーデターが頻発するなか異彩を放つ国がある。中部アフリカのガボンだ。死者がひとりも出なかったクーデターで、米国式の民主主義を手本とする暫定大統領が誕生。民政移管の道を今後歩むかどうか、ににわかに注目が集まっている。

「今日が真の独立の日だ!」

2023年8月30日の早朝。国営テレビ局のニュース番組「ガボン24」に選挙管理委員長が出演し、4日前に実施された大統領選で現職のアリ・ボンゴ大統領が3選を果たしたと発表した。その直後に突然画面が切り替わり国軍将校らが選挙結果の無効を宣言。ボンゴ氏は首都リーブルビルの自宅に軟禁された(その後軟禁は解除され、人道的理由による海外渡航も許可された)。

在ガボン日本国大使館に勤務する森口雄太三等書記官によると、ガボンで特筆すべきは「政変(クーデター)から約半年経った今までにひとりの死者も出ておらず、暴動も起きていない」ことだ。

「多くのガボン人は『クーデター』ではなく『解放のための行動』と表現する。これが他のアフリカ諸国のクーデターと大きく異なる点だ」

サブサハラアフリカでは2020年代に入ってから、旧フランス領を中心に軍事クーデターの連鎖が続く。現在までにマリ(2回)、ギニア、ブルキナファソ(2回)、ニジェール、ガボン、スーダンで計8回起きた。

ニジェール、マリ、ブルキナファソでは、クーデターの後に反仏感情の強い軍事政権が誕生。この3カ国では駐留フランス軍が撤退し、その隙を突くかたちでロシアの民間軍事会社ワグネルの影響力が増した。また、2021年10月にクーデターが発生したスーダンでは、2023年4月に国軍と、同国西部で半世紀以上続いたダルフール紛争の際に民兵組織「ジャンジャウィード」として組織され、国軍側についた準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の間で統合の是非をめぐり戦闘が発生。急激に治安が悪化した。

ただ、同じアフリカでもガボンの場合はこの筋書きは当てはまらない。森口氏によると、ガボンでは治安の悪化、ロシアの進出、反仏感情の高まりは今のところ見られない。「今回の軍による行動は、『二度と市民に銃口を向けたくない』というガボン独自のロジックで起きた」と言う。

親子で56年にわたり権力を独占

ガボンでクーデターが起きた背景には、権力を独占してきたボンゴ一族に対する国民の不満の高まりがある。アリ・ボンゴ前大統領の父オマール・ボンゴ氏が1967年から42年間、息子のアリ・ボンゴ氏が2009年から14年間、2人であわせて56年にわたってこの国を支配してきた。

だがこの間、汚職や不正選挙の疑いが後を断たなかった。アリ・ボンゴ氏が脳卒中で倒れた2018年9月以降は、シルビア大統領夫人や息子のヌルディン・ボンゴ氏が大統領の名を借りて権力を濫用したとされ、2023年8月30日に大統領の署名の偽造や麻薬の密売などの容疑で逮捕されている。

「大統領に近い一部の人だけが利権を独占していたので、国民はガボン政府を信用していなかった。政変(クーデター)の直後に逮捕されたヌルディン氏の自宅では、10個ほどのスーツケースやカバンから約70億CFAフラン(現地の通貨。約17億円)の札束が見つかったとガボンのオンラインメディアで報じられている」(森口氏)

ガボンは貧富の差が大きな国だ。アフリカ有数の産油国で、国内総生産(GDP)の6〜7割を石油収入に依存する。そのため1人当たりのGDPは2022年のデータで8820ドル(約130万円)とアフリカ全体では3番目に高い。だがこの数字は実情を映さないという。

「1人当たりのGDPだと、産油国で人口が約200万人と少ないガボンでは必然的に数字が高く出る。実際は多くの国民が最低賃金ラインで生活している。(教育・健康・所得の観点から各国の生活の質を評価する)人間開発指数は2021年で112位とそこまで高くない」と森口氏は説明する。

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