ベナン南西部のクッフォ県ザフィー村で家に長く引きこもっていた視覚障害者が一念発起して、マッサージ、せっけんづくり、ヤギ飼育の3刀流で成功した。キンビジ・アルフォンスさん(40)だ。妻と子ども4人をもつ一家の大黒柱で、中庭付きのコンクリート製の家まで建てた。「盲目でも自分の仕事で家族を養えるのが幸せ」と胸を張る。
「神の手」と呼ばれるマッサージ
「歩けなかった人が歩けるようになった」「半身麻痺の人が普通に生活できるまでに回復した」
村人がこう話すアルフォンスさんのマッサージには定評がある。病院に行けない人が多いザフィー村でマッサージは疲労回復というより、治療のための施術となっている。
携帯電話でマッサージの仕事が入ると、180センチメートル前後のアルフォンスさんはバイクの後ろにまたがって顧客の家へ向かう。バイクは自分のものだが、運転するのは親せきだ。到着後は、マッサージ道具一式が入ったバッグを開いてマット、足ツボ板、クリームの入った容器を慣れた手つきで取り出していく。クリームはマッサージに使うシアバターに加えて、薬草クリームが5~6種類ある。
「握手するだけで相手の体調がわかる」とアルフォンスさん。マッサージをしながら目や腰、骨格など顧客の悪い箇所を説明するアルフォンスさんのことを村人は「神の手」と呼ぶ。ベナン最大の都市コトヌーまで出張して、交通事故にあって重い症状の子どもに2週間マッサージをして回復させたこともある。
マッサージの価格は出張する場所への距離と顧客の症状によって変わる。近場で通常のマッサージをする場合は2500CFAフラン(約500円)。重篤な症状の場合は回復するまで25万CFAフラン(約5万円)という具合だ。1カ月から1年くらいかかるときもある。1回につき30~60分、多いときは1日6人ほどを施術する。
アルフォンスさんがマッサージを学んだのは隣国トーゴ。2011~13年の20代後半のころ、北部の町カラで修行した。それからザフィー村に戻って29歳で結婚。これまでの12年間でおよそ800人をマッサージした。
ちなみにアルフォンスさんの妻は自分の畑でヤシを育てる。これ以外にも、盲目の夫ができないお金の管理などの仕事を助けている。