フェルト作りを一から学ぶ
原料の羊毛をケニア国内で調達することも、三関さんの強いこだわりのひとつだ。買い付ける場所は、ケニア西部のニャフルルやナクルなど。標高2400メートルの高地だ。マチャコスからはバスで4時間ほどかかる。三関さんは「(売られている)刈り取ったばかりの羊毛は獣の臭いがする」と表情を緩める。
1回に買う量は50キログラムほど。初めのころは10キログラムほどだった。ちなみにルームシューズを一足作るのに必要な量はおよそ200グラムだ。
こうしたフェルト作りの技術を、三関さんは一から勉強して身につけた。日本でフェルト教室に通ったり、フェルト作家に意見をもらったり。フェルト作家からは商品開発への協力も取り付けた。
2023年11月にケニアに来てからは、ナイロビで日本人が経営する孤児院マトマイニ・チルドレンズホームの中にあるフェルト工房に通う。この工房は、ナイロビ近郊のスラムに住むシングルマザーが羊毛フェルトのぬいぐるみを作る場所だ。ぬいぐるみは日本で売る。羊毛を洗うのにシャンプーを使うことを三関さんが知ったのもここだ。
三関さんは「(ケニアでよくやられているように)普通のせっけんを使って洗った羊毛をみたら、汚れや油が残っていた。日本で売る以上、それは許されない。工房で相談したら、無香料のシャンプーを使うのが良いと教えてくれた」と話す。
入学にはわいろが必要
ケニアの障がい児のために働くと三関さんが決めた原点は、JICA海外協力隊員として同国に派遣されたときに感じた悔しさだ。2014~16年に同国の児童相談所で活動した。
ある日、虐待の通報を受けて三関さんが現場に向かうと、家の中から「わーっ」という声が聞えた。叫んでいたのは知的障がいのある6歳の男の子。母親が畑仕事に出ている間、鍵のかかった部屋に閉じ込められていた。
「一緒に暮らしているおばあちゃんは、ほかの孫はかわいがるのに彼には目を向けない。すごく悲しい気持ちになった。でも外国人のボランティアである私がむやみに介入できなかった」と振り返る。
それから数カ月かけて三関さんは、近くの特別支援学校に彼を入れる手はずを整えた。だがいざ入学できる段になって、定員オーバーを理由に学校側が受け入れを拒んできた。
「2、3年経ってわかったのは、入学にはわいろが必要だということ。彼の家庭にそんなお金はない。結局いつまで待っても無駄だった」と三関さんは語る。
2021年からは在ジンバブエ日本大使館で2年間勤務。仕事のかたわら日本の通信制大学で勉強し、特別支援学校の教員免許を取った。「(課程の最後には)日本に一時帰国し、36歳にして教育実習をやった。現場での経験がまだ足りないので、周りからたくさんアドバイスをもらっている」(三関さん)
三関さんは現在、起業のためのクラウドファンディングを3月7日まで実施中。主な使い道は障がい児の母親60人の3カ月分の給料や、羊毛からフェルトを作るのに不可欠なカーダ機9台など。当初の目標だった100万円はすでに突破し、200万円のネクストゴールを掲げる。
「私の最終目標は、障がいをもつ子どもとその家族が安心して暮らせる社会を作ること。羊毛フェルトの仕事は大好きだが、あくまでそのための手段。いつかはケニアで幼稚園を開いて、障がいをもつ子どもが幼いうちから特性にあった支援を受けられるようにしたい」。三関さんはこう夢を膨らませる。