アボカドオイルでケニアの農家に収入を! 協力隊OGが選んだ「社内起業家」の道

JICA海外協力隊員時代に一緒に活動したバナナ農家と伊治由貴さん(右から3人目)。熟したバナナ、小麦粉、ベイキングパウダーなどを混ぜて油で揚げたお菓子「マンダジ」を売っていた。販売に至るまで20回ほど試作を重ねたといい、「今後もこうした熱意のある農家をサポートしていきたい」と意気込む

ケリチョ郡にアボカド拠点を作りたい

目指すは、農家1戸当たり年間300キログラムのアボカドを買い取ること。1キログラム(アボカド3個)約20シリング(約24円)を払う。農家にとっては6000シリング(約7200円)の追加収入となる。

ケニアの農家の平均月収は5000シリング(約6000円)といわれるので、それ以上の金額だ。これで「全寮制ではなく家から通う高校の半年分の授業料がまかなえる」(伊治さん)。現在はケリチョ郡のリーダー10人と相談し、事業に協力してくれる農家を集めている。目標は500人。

買い取るアボカドは、種を取ってペースト状に伸ばし、一晩乾燥。搾油機で低温圧搾(コールドプレス)することで、栄養価を損なわないという。最後に濾過をしてアボカドオイルの完成だ。搾油率の目標は10%。100キログラムのアボカドから10リットル(250ミリリットル入りの容器で約40本)のオイルがとれる計算だ。

現在は首都ナイロビにある公共施設「ケニア産業研究開発機関(KIRDI)にある搾油機を借り、7月の生産開始に向けて試作を重ねる。伊治さんは「いずれはケリチョ郡の中に買い取りから生産、梱包、出荷まで対応できる拠点を作り、地域の雇用を生み出したい」と今後を見据える。

当面のターゲットはケニアの富裕層

アボカドオイル事業を立ち上げた伊治さん。ただ、正確にいえば伊地さんは起業家ではない。ケニアの農作物の買い取り・加工・商品化を手がけるアルファジリの社員であり、新規事業の責任者の立場にある。いわば社内起業家だ。

アルファジリを2016年に設立したのは、ケニア協力隊OGの薬師川智子さん。ケニア南西部のミゴリ郡の農家から仕入れた大豆で作った味噌や豆腐をナイロビの自店舗で販売していた(現在はオンラインのみ)。伊治さんは、共通の知人を通して薬師川さんと話す機会を得た。任期が4月に終わる3カ月前のことだった。

「協力隊の後はアボカドを使った事業がしたい」と伊治さんが伝えたところ、以前からアボカドオイルに興味があったという薬師川さんと意気投合。その場でアルファジリで初めての日本人スタッフになることが決まった。

協力隊OB・OGが任期を全うした後も派遣された国とかかわり続ける主な方法は、自分で起業するか、NGOへ入るか。伊治さんはそのどちらでもない第3の道を選んだのだ。

「協力隊はボランティア活動。だからできることに限界もあった。薬師川さんの8年間のノウハウや情報を使わせてもらいながら事業化することが、ケニアの(貧困という)課題に取り組むための最短ルートだと思った」。農家にとってのメリットを一番に考えたうえでの選択だった、と伊治さんは振り返る。

アボカドオイルはまず、アルファジリの商品のケニア国内の卸先であるスーパーマーケットやオーガニックショップを中心に販売する。ターゲットは富裕層で、1本(250ミリリットル)の値段は2000〜3000シリング(2400~3600円)。「健康志向のケニア人も増えていると聞く。オンラインでの販売も並行していく」。まずはケニア国内で黒字にし、いずれは日本市場も視野に入れる。

伊治さんは6月4日まで、事業の初期費用を工面するためクラウドファンディングを実施中。生産・販売準備費や各種認証取得費用、現地調査費として目標金額500万円を掲げる。

アボカドは旬の時期(4月、9月)、ケリチョ郡の幹線道路の脇で山積みになる

アボカドは旬の時期(4月、9月)、ケリチョ郡の幹線道路の脇で山積みになる

伊治さんの任地ケリチョ郡の農家の人たちと伊治さん(左から2番目)。障がいをもつ子どもの親のグループを訪問し、アボカドオイルの作り方を指導した

伊治さんの任地ケリチョ郡の農家の人たちと伊治さん(左から2番目)。障がいをもつ子どもの親のグループを訪問し、アボカドオイルの作り方を指導した

1 2