ミャンマー軍政への抗議デモに明け暮れた60日、いまはタイで放心状態

クンテットさんの友人の部屋クンテットさんのミャンマー人の友人が暮らす部屋(バンコク)

召集令状が届く

2023年5月にクンテットさんのもとに召集令状が届く。国軍の兵士になりたくなかったで、陸路でタイへ不法入国することにした。

ヤンゴンからタイ側の国境の町まで5日かけて、タイへの入国を仲介する業者が手配した車で行った。「十数人のミャンマー人とジャングルの中で息を殺しながら移動した。仲介業者同士で、通り道に国軍の兵士がいるかどうか連絡を取り合い、昼夜関係なく車を乗り換えて行った。食料は仲介業者が手配してくれた」(クンテットさん)。仲介業者には1万3000バーツ(約5万5000円)払った。

バンコクに来て3カ月後、クンテットさんはエアコンを取り付ける仕事を始めた。パスポートなしの不法入国のため、職探しは大変だったという。6~7カ月働いたが、タイの警察が不法入国者の取り締まりを強化したため、逮捕されることを恐れ、仕事を辞めた。

「タイの警察に捕まったら、100%強制帰国させられる。送り返されたミャンマー人の6割はミャンマー国軍の兵士として戦場に送り出される」

無職となったいま、クンテットさんはミャンマーに住む母から生活費を送金してもらい、ギリギリの生活を送っている。母からの送金額は毎月7000バーツ(約3万円)。ミャンマー人の友人の家に居候して生活をしている。友人と、疲労回復や鎮痛効果がある植物クラトムのお茶を飲みながら映画を見たり、ビーチにたまに行ったりしている。

不法入国したミャンマー人がタイに合法的に住むにはまず、一時滞在許可証「ピンクカード」の取得が必要だ。その申請の受付は1年に1回。期間も2〜3週間と短い。問題はそれがいつなのかわからないことだ。

ピンクカードを取得したいクンテットさんは「あすから始まるかもしれないし、1年後かもしれない。ニュースをこまめにチェックしてただ待つしかない。選択肢がない。他の国にも住めないし、考えたくても何も考えられない」と話す。

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