【ラオス無法地帯を行く②】世界を股にかけるオンライン詐欺集団、雇われるのは貧しいラオス人

ゴールデントライアングル経済特区のコンドミニアム。1階がレストランとスーパー。2階以上が宿泊施設だ

高収入 or 性的虐待

気になるのは収入だ。十分なお金は支払われていたのだろうか。

「ベース給は5000元(約10万円)。これに出来高が付く。ある10代の女の子は月に20万元(約400万円)も稼いでいたよ」(ラオ)

驚きの金額だ。この女の子はいったい何人を騙して、いくらぐらい振り込ませたのだろう。想像もできない。

「それ以外にも、成績が良い人はグループリーダーに昇進する。給料が8000元(約16万円)になって、またグループの利益の10%を受け取ることができる」

高収入、しっかりとした昇進システム。話を聞くかぎり、ラオス人にとって条件は十分のようだ。だが約束通り支払われているかというとそうではなかったという。

「成果が上がらなかった人は、会社から『今月は利益がなかった』と言われ、5000元のベース給すらも払われなかった。何カ月も客をとれなかった場合、そのラオス人は別のスキャム会社に売り飛ばされたりした。そこでまた同じスキャミングをするんだ」

売り飛ばされる。この言葉を聞いて、2022年にスキャマーの仕事をしていた女の子たちが、売春宿に売られたというニュースを思い出した。彼女たちはカジノの掃除をさせられたり、性虐待を受けたと聞く。ラオの会社ではそうしたことはなかったのだろうか。

私がこう尋ねると、ラオは首を振ってこう答えた。

「よくわからない。ゴールデントライアングル経済特区には何百のスキャム会社があるから、どこに売られていったのか見当もつかない。ただ性的虐待があったとしても不思議ではないところだったよ」

ゴールデントライアングル経済特区はラオスではあるものの、中国マフィアが所有する無法地帯。司法や警察が機能しているはずがない。不当な扱いをされたり、危険に晒されても、誰も助けてくれない。

それでもラオのように仕事を求めてゴールデントライアングル経済特区にやってくるラオス人は後を絶たないという。

「ゴールデントライアングルが危険なことはみんなわかっている。詐欺まがいのことをさせられるのも。それでも生きるためには仕方がないんだ」(ラオ)

ラオスの1人当たりの実質国内総生産(GDP)は約2000ドル(約29万円)で、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国中8番目。後ろにはクーデターで国軍が権力を掌握するミャンマーと、事実上の独裁国家であるカンボジアしかない。農民は毎日働いても毎月120万キップ(約8000円)しか稼げないといわれるラオス。そんな国の人にとって、ゴールデントライアングル経済特区は危険を冒してでもいく価値のあるところなのだろう。

国境、経済特区という干渉されにくい場所をいいことに、ゴールデントライアングル経済特区では世界を股にかけたオンライン詐欺が横行する。そのベースにあるのは、中国とラオスの経済格差にほかならなかった。(続く

人身売買の撲滅を啓発する横断幕。ゴールデントライアングル経済特区では2007年以降、1700人以上の被害者が保護されている(タイ・ラオス国境の入国管理局で撮影)

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