収入は3倍も12時間労働
日も暮れた夜の7時、ドライバーは私をトンプンの目抜き通りに降ろした。目につくのは、オープンテラスのレストラン、ネオンが眩いカラオケ屋(キャバクラ)、マッサージ屋だ。レストランからは中国のポップソングが聞こえる。看板にはラオス語とともに「卡拉OK」「古式按摩」といった中国語が並ぶ。トンプンの中心地は中国人のための飲み屋街となっていた。
レストランに入るとおばちゃんが、ラオスの通貨キップ、タイの通貨バーツ、中国元の3種類の通貨で会計をしている。メニューも中国語で書かれ、店のスタッフも簡単な中国語を話す。中国のお酒もあった。
予想以上に中国化されたトンプン。この状況を見て、前日にフエイサイでインタビューした女性の話を思い出した。
彼女の名前はファー。トンプン出身だった。彼女によると、トンプンはかつて、メコン川沿いにある典型的な村のひとつだったという。主産業は農業で、農民はとうもろこしを主に作って生計を立てていた。
だがキングスローマンズグループが2008年にトンプンの開発を始めると、村の生活は一変した。保証金が支払われたものの、村人たちは同意のあるなしにかかわらず強制的に近くの集合住宅に移させられた。これまで畑として使っていた土地も没収。農家は収入を失った。
代わりにあてがわれたのがカジノでの仕事だ。村人はカジノのディーラーとして採用された。収入は月8000バーツ(約3万3000円)。農業で得る収入の3倍の給料だ。
だが仕事は過酷なものだった。
「24間営業のカジノではディーラーは12時間の勤務のシフト制。だがラオス人は1日12時間も働いたことはない。うちの姉も最初はカジノで働いていたが、辛くて辞めてしまった」(ファー)
土地を奪われた農家に選択の余地はない。今ではほとんどの人が経済特区やトンプンで中国人を相手に仕事をしているという。
「キングスローマンズグループが来て仕事は増えたけど、悪いことも増えた。売春もそう。スキャミングで成果が出なかった女の子は売春宿に売り飛ばされるって聞いた」(ファー)
ファーはキングスローマンズグループや中国企業に対して怒りを感じているようだった。だが力なくこう言った。
「でもラオスの経済は中国に頼り切り。面と向かって批判はできない」
ラオスは今、中国なしでは立ち行かない。ゴールデントライアングル経済特区を筆頭に、多くの中国企業がラオス全土に進出、雇用を生み出している。ラオスの公務員の賃金は中国企業には遠く及ばない。ファーはこう愚痴をこぼす。
「私の友だちは7年間、学校の先生として働いた。だけど政府から給料は出なかった。ラオス政府には期待できない。中国企業に頼るしかない」