【ラオス無法地帯を行く④】ミャンマー内戦の資金源となる麻薬取引、ゴールデントライアングルから世界へ

ラオス北部にある「ゴールデントライアングル経済特区」で、オンライン詐欺、売春と並んで問題視されているのが麻薬の密輸だ。ヘロインやヤーバー、アイスといった麻薬のほとんどはミャンマーで生成され、ゴールデントライアングル経済特区を経由して世界に送られるという。ganas記者は麻薬密輸の実態を探るため、タイ警察の元諜報員を訪ねた。(第1回はこちら

ケシの生産量世界一

私はタイ北部のチェンライにいた。ラオス北部のトンプンからゴールデントライアングル経済特区に入ろうとしたのだが、チェックポイントで警備員に止められてしまった。いくら話しても、「許可証がないとここからは入れない」の一点張り。私はトンプンから入るのを諦め、経済特区にメコン川を挟んで隣接するタイから目指すことにした。

その道中、チェンライに住む友人にゴールデントライアングルの取材をしていると話した。すると「最適の人物がいる。彼の話を聞くといい」と言って、ある人を紹介してもらう流れとなった。

それはかつて麻薬密輸の捜査をしていた警察の元諜報員。それもかなりの腕利きだったという。

麻薬の密輸・密売はゴールデントライアングルの主要な犯罪のひとつだ。そもそもラオス・タイ・ミャンマー3カ国の山岳部にまたがるゴールデントライアングルは以前から、アヘンやヘロインの原料となるケシの栽培のメッカ。ミャンマー側では今も盛んに作られており、2023年はアフガニスタンを上回りケシの生産量で世界一となった。

だがアヘンやヘロイン以上に今、猛威を振るっているのがメタンフェタミン系の覚醒剤だ。材料となる化学物質さえあればすぐ生成できるため、生産量が近年急増している。この代表格がメタンフェタミンとカフェインを混ぜた覚醒剤「ヤーバー」。タイでは近年、ヤーバーが社会問題になっている。タイの東北部で2022年に36人が殺される痛ましい事件が起きたが、犯人はヤーバー中毒者だったといわれる。

ミャンマーとタイの間の麻薬の密輸、ゴールデントライアングルがそれにどうかかわっているのかを知るため、私は友人とともにミャンマーとの国境近くの山岳地帯に向かった。

足がない元諜報員

チェンライを出発して3時間、山間の小さな町に到着した。友人は幹線道路から一本入ったところに車を止めると、シャッターの閉まった家をノックした。真昼間だというのに鍵がかかっている。人が住んでいる気配はない。そう思っていると、中から年配の女性が出てきた。彼女は友人と言葉を交わし、私たちを家に入れてくれた。

階段を上がって3階の寝室に行くと、そこにひとりの男が横たわっている。彼の名はウンゲオ。目的の元諜報員だ。

ウンゲオは上半身裸、下半身は毛布をかけていた。はっきりと見えないが、明らかに両足とも短い。ウンゲオは両足を切断していたのだ。毛布の端から出た管は尿パックにつながっている。

ウンゲオはタイ北部でも一二を争う腕利きの諜報員だった。さまざまなところから情報を得て、密輸のルートを特定。密輸業者を摘発、逮捕していったという。

だがそれをよく思わなかった人間が警察の中にいた。その警官は麻薬組織とつながっており、裏で麻薬の斡旋をしていたのだ。

ウンゲオは19年前、その警官に後ろから両足を撃たれた。以降、完全に寝たきりの状態。妻に看病をしてもらっているという。

ウンゲオは私と目を合わせるなり、こう忠告した。

「仲間だと思っていたやつに後ろから撃たれてこのざまさ。麻薬の世界は非情だ。あんたもあんまり深入りしないほうがいいぞ」

売春、オンライン詐欺などゴールデントライアングには多くの犯罪があるが、麻薬は動く金額のケタが違う。かかわると容赦がない。彼の切断された足がその恐ろしさを物語っていた。

麻薬に詳しいタイ警察の元諜報員に会いに行く道中で訪れたカフェ。麻薬はこの深い山を越え、ミャンマーからタイへ運ばれる

1 2