タイで増える麻薬依存者
ウンゲオの話によれば、アヘンやヘロイン、ヤーバーなどはほとんどミャンマーで作られるという。その後、タイに入り、そこから他の東南アジア諸国やオーストラリア、日本へと送られる。そこには世界中のマフィアが結託する麻薬シンジケートがあるのだ。
麻薬は一体誰が作っているのか。私はウンゲオに尋ねた。ウンゲオは天井を見つめたまま、こう断言した。
「ミャンマー・シャン州の武装勢力だ。麻薬の売り上げは武器の購入代や兵士の生活費になる」
麻薬を生成・密売する武装勢力の代表は、シャン州のワ自治管区を支配するワ連合軍。収益の大きさら、ミャンマーの少数民族の武装勢力の中でも圧倒的な軍事力を誇る。
国軍の軍事拠点を次々に攻撃し、支配下に収めていったシャン州での軍事作戦「オペレーション1027」。これを実行したアラカン軍、タアン民族解放軍、ミャンマー民族民主同盟軍の三兄弟同盟はワ連合軍と同盟関係にある。オペレーション1027でも共闘したとされ、ワ連合軍の軍備が戦闘に使われたのは間違いない。またミャンマー民族民主同盟軍が麻薬を生成・密売しているとの噂もある。
民主派が樹立した国民統一政府(NUG)は三兄弟同盟に期待を寄せている。また民主化を求め一般市民が武装した国民防衛軍(PDF)も共闘する。そうした武装組織の資金源が麻薬とは皮肉だ。「打倒国軍」を掲げて戦えば戦うほど、需要地のタイで麻薬依存者が増えていく。
汚れた人たちに失望
麻薬取引の中心地がラオス側にあるゴールデントライアングル経済特区だ。そのプロセスをウンゲオが教えてくれた。
「麻薬の取引といっても、キングスローマンズグループ(中国のエンターテイメント企業の)のカジノに行って関係者と少し話し、お金を払うだけだ。経済特区から10キロメートルほどメコン川を上ったところにワンポンという町があり、そこに麻薬がストックされている。発注があり次第、そこから船で麻薬が輸送され、ラオスやタイの川沿いの町々に送られる」
麻薬の運搬を阻もうとタイ政府もメコン川流域の警備に力を入れる。だが成果はあまり上がっていないようだ。
麻薬を取り締まるには、タイ、ミャンマー、ラオス3カ国の連携が必要だ。だがミャンマー側のメコン川流域はさまざまな武装勢力に支配され、統率がとれていない。タイやラオスでも警察や政治家の一部がこの麻薬取引に関与しているといわれる。機能不全をいいことにキングスローマンズグループはここにカジノタウンを作り、それを隠れ蓑に麻薬を横流しして儲けている。
それ以外にも、麻薬が安く買えること、メコン川を使うため運搬しやすい――といったビジネスとしての好条件がそろう。ゴールデントライアングルでの麻薬取引は一筋縄では止められない。
この麻薬ビジネスの闇は思っていた以上に深い。邪悪な人間たちの存在に私は失望し、ウンゲオの家を後にした。ゴールデントライアングルに明日、入る。そう思うと足がすくんだ。(続く)