銃ではなく「筆を持たせれば絵を描く」、暴力蔓延るコロンビアの貧困地区で少年ギャングを更正

サル・イ・ルース代表のホアン・アランゴさん。歌手として活動するときの名前は「Bardd Street」。ユーチューブにも数曲アップしている

「銃を持たせれば人を殺す。筆を持たせれば絵を描く」。こう語るのは、コロンビア・メデジンの貧困地区コムナ13で生まれ育ち、この場所で活動する団体サル・イ・ルース(スペイン語で「塩と光」の意)のディレクターを2024年1月から務めるホアン・アランゴさん(24歳)だ。彼には絵の描き方や手工芸品の作り方を教えるプロジェクトを立ち上げる夢がある。

コムナ13の住民は家族

コムナ13はかつて、左派ゲリラの「コロンビア革命軍」(FARC)や「民族解放軍」(ELN)の兵士、パブロ・エスコバルが創設したことで知られる麻薬組織「メデジンカルテル」の密売人らが集まる危険な地域だった。

左派ゲリラを一掃するためにコロンビアのウリベ大統領(当時)が2002年に決行したのが「オリオン作戦」だ。国軍と右派ゲリラ(パラミリタレス)の兵士らを投入、コロンビアの歴史上最悪とされる市街戦を繰り広げた結果、少なくとも死者90人、行方不明者100人を出したといわれる。

オリオン作戦の結果、左派ゲリラはほぼいなくなったという。だが貧困ゆえの暴力や窃盗は後を絶たない。

そうしたなかコムナ13に住む青少年らが「暴力行為以外のこと」をやりたいと話し合い、ジョインしたのがサル・イ・ルースだ。彼らの現在の活動は主に3つ。観光客を対象にしたコムナ13のツアー、コムナ13の中の清掃活動、コムナ13にいる路上生活者が暮らすための家の建設の手伝い。家の建設費用は近所の住民の寄付でまかなう。

サル・イ・ルースに参加する若者の本業は歌手、学生、アクセサリー店の経営、家庭菜園の普及など。サル・イ・ルースの活動はあくまでボランティアだ。にもかかわらず、彼らを突き動かすのは、アランゴさんの「コムナ13の住民は家族」という哲学にある。一方が助けるのではなく「みんな対等」。だから困ったときはお互いさまで、お金も出し合う。

ちなみにサル・イ・ルース代表のアランゴさんは「Bardd Street」(バードストリート)の名前で歌手としても活動する。代表曲は「El Barrio es un Poema」(このスラムは詩だ)。歌詞には「僕ら(コムナ13の住民)は詩人だ」という箇所がある

少年ギャングを更正させる

この1月に副ディレクターになったヨハン・アルボルテさん(26歳)はサル・イ・ルースで新たな企画を考案中だ。青少年に絵を教える活動だ。この案は彼自身が体験した過去に基づく。

地元のギャング「フガンディ」に所属していた彼は暴力行為にも手を染めていた。8歳から19歳までYMCAにもかかわっていて、手工芸品の教室にも通った時期がある。熱中するものができたことで悪さをする時間がなくなり、ギャングから抜けた。

まさに、「銃を持てば人を殺すが、筆を持てば手工芸に色を付けたり、絵を描いたりする」。アルボルテさんが手工芸品で更生したように、コムナ13の“元ギャングたち”は今、現役の“少年ギャングたち”を更生させようと頑張っている。