「暴力で亡くなった人をただの死者にしたくない」 コロンビア・メデジンの壁に理不尽に命を奪われた犠牲者の写真

コロンビア・メデジンの貧困地区「コムナ13」の中にある追悼場。ギャングの抗争やデモの衝突などの犠牲者の写真が並ぶ

「世界最恐スラム」とかつて呼ばれたコロンビア・メデジンのコムナ13。コムナ13を含むメデジン市全体で起きたギャング抗争やデモの衝突などあらゆる暴力で死亡した犠牲者の写真をコムナ13の路上の壁に張って追悼する活動がある。この活動の担当者で、YMCAメデジンでボランティアをするセバスチャン・ドゥランゴさん(22歳)は「暴力で亡くなった人をただの死者にしたくない」と語る。

写真の下に数輪の花

ドゥランゴさんは20歳のとき、友人に誘われてYMCAメデジンのボランティアを始めた。最初は家から遠かったため参加するか迷った。しかしその友人がバイクで連れて行ってくれると言ったため、参加してみることに。

「私を家族のように受け入れてくれた」とドゥランゴさんは嬉しそうに話す。それ以降、バイクがない日は歩いて通う。

ドゥランゴさんは2023年6月、コムナ13で活動するNGOや財団が共同で運営する、ギャングの抗争やデモの衝突など、あらゆる暴力で亡くなった犠牲者の写真を道端の壁に張って追悼するプロジェクトに参加した。写真は雨風に負けないようアクリル板でプリントする。

追悼場(路上のギャラリー)の名前は「ガレリア・ビバ・メモリアル・デ・ラス・アウセンシアス」。ここにはおよそ380枚の写真が飾られている。1枚の大きさは数十センチメートル四方だ。

ドゥランゴさんがかかわった写真のひとつが、あだ名が「ラ・ラタ(スペイン語でネズミ)」だった17歳の少年。メデジンで起きたデモを見ていたとき、警官にゴム銃で銃殺された。

彼はたまたまデモに居合わせた一般人。警察は「事故だった」と主張するが、家族や現場にいた人は否定する。

写真を壁に掲載した数日後、ドゥランゴさんがギャラリーに戻ると「ラ・ラタ」の写真だけに数輪の花が置かれていた。「誰かがこの写真に興味をもってくれて嬉しかった。たぶん彼の家族や友だちだろう」と真剣な表情で語るドゥランゴさん。これをきっかけにこの仕事を好きになったという。

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